第8話《完》

 日差しが雪を溶かし下に埋もれていた息吹に人々が気付き始めた。王城の一室にも、窓から暖かな陽光が差し込んでいる。身体を優しく温める心地よさに、部屋にいたヴィオレットはうとうとと船を漕いでいた。

 そこに、エルガーがやってくる。


「アスター、居眠りですか?」

「んっ……すみません」


 ぼうっとしたまま、ヴィオレットは手元の資料に向き合う。その資料を横から裏返して休憩を取るべきだとエルガーが言うと、ヴィオレットも素直に頷いて椅子の背もたれに身体を預けた。


「昨日は遅かったのですか?」

「はい。近付くのに手間取ってしまいました」


 その後も、ヴィオレットは今まで通り夜の仕事を続けている。それほど多くは変わらなかった。

 ただ一つ変わったのは、二人の関係だけだ。


「ヴィオレット、コーヒーは要りますか?」

「欲しいです」


 差し出された愛情に相手の名前を呼んで答える――かけがえのない関係だ。


「エルガーさん、ありがとうございます」



《完》

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影、花は微笑む 南木 憂 @y_ktbys

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