お茶を作る

西しまこ

第1話

 柿の葉が柔らかな若葉色で、おいそうだから一枚もいで齧ってみた。

 ……意外に苦くない。葉の表面は産毛が生えたみたいにざらざらしている。見ただけでは、つやつやに見えるのに。何度も噛むとほの苦い。

 柿の葉茶を作ろうかなと思って、若葉を摘む。


 不思議だ。

 秋になると、深い緑色になるのに、いまはきらきら輝く黄緑色だ。

 ぷちぷち若葉を摘みとっていく。

 あれ? 柿の葉茶の葉は春に摘み取るんだったっけ? 夏だった気がする。

 一瞬手を止めたけれど、少しだけ、と思ってそのまま摘む。


 さっきのほの苦い味。

 あの味の葉で、そしてこの色の葉で、お茶を作ってみたい。

 葉が、陽の光に当たって、きらきらと輝く。なんて美しいのだろう。


 わたしは若葉の季節が大好きだった。

 花よりも緑が元気になる、この季節。

 若葉が、この時期にしか見ることの出来ない若々しい緑色をしていて、浮き立つような気持ちになる。何かしてみたくなる。だから今日はお茶を作ることにする。

 葉を洗って陰干しにする。あとは蒸して乾燥させるだけ。


 わたしは、出来上がった柿の葉にお湯を注ぐことを想像しながら、部屋に戻った。

 ゆっくりお茶を淹れると、こころが落ち着く。

 緑茶、抹茶入り玄米茶、麦茶、ドクダミ茶、ルイボスティー、アールグレイ、イングリッシュブレクファスト、マルコポーロ。


 気分によってお茶を変える。

 一年中温かいお茶を飲む。

 柿の葉茶を飲めるのは少し先だから、今はとりあえずアールグレイを淹れる。ルイボスティーを作り置きしておこうかな。薬缶で沸かすお茶は、今日はドクダミ茶にしよう。麦茶は夏場の方がおいしい気がする。麦茶はつぶつぶの豆で作る。その方がずっと香ばしくて、深い味がするから。


 薬缶にドクダミの葉を淹れて水を入れる。そして、沸かす。

 ふと庭を見ると、小さな白い花が咲いていた。ハルジオンかな?

 ハルジオンが風に揺れる。

 カラスノエンドウも、赤紫の花を咲かせていた。

 小さいころ、カラスノエンドウで笛を作って鳴らしていた。中の豆を丁寧にとって。


 ふと思いついて、ハルジオンを摘んで一輪挿しに飾る。かわいい。

 薬缶が沸騰した音を立てたので、弱火にする。

 春の日の午後は穏やかに過ぎてゆく。

 風がそよいで、柿の木が揺れた。

 うん、きっとおいしく出来るよ、お茶。


 わたしはカーテンを少し開けて、庭が見えるようにしておいた。




   了



一話完結です。

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