ひとつ

綴。

第1話 ひとつ

 ママがね、私の体の埃を拭いてくれるの。

 毎年、この季節に。


 私はいくつになったのかなぁ。

 もう忘れちゃった。

 ママが私の埃を拭き終わると、最近言うの。

「もうそろそろ買い換え時かなぁ。」

って、少し笑って。


 キレイになったらコンセントを入れてスイッチを押してくれる。

 私は回るの!やったぁ――って元気良く!


 でも最近は、なかなかすぐに回れないの。

 時計の秒針君の方が早いかも。

 だからママが笑いながら言うの。

「ほらっ、頑張って回ってー!扇風機ちゃん!」


 でも私は回り始めるのに時間がかかるの。

 毎日回っているとね、早く回れるようになるのよ。

 最近はいつもそう、埃を拭いて貰ったあとは、ゆっくりしか回れない。


 今日もね、ママが体の埃を拭いてくれてる。

 もうすぐ私の出番!

 うまく回れるかなぁ。


 今日のママは泣いている。

 テレビのニュースを見ながらね。

「どうしてそんな事をしなきゃいけないんだろうね。地球はひとつしかないのに。

 そんなミサイルなんか飛ばしてさ。

 パトリオットなんて恐ろしい!そんなミサイルの下で80億ほどの命が今日も必死で生きているのに。」

って、目を真っ赤にしながら私の体の埃をキレイに拭いてくれている。


 ママ、私頑張るよ!

 風が強く吹いたらミサイルなんか飛ばせない世界になるんじゃない?


「ほら、頑張って回って――、扇風機ちゃん!」

 やっぱりママは笑っている。

 私、ミサイルなんて飛ばせないくらい、いっぱい回りたいなぁ。


 でもやっぱり秒針君のほうが早いなぁ。




― 了 ―

  一話完結です。

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ひとつ 綴。 @HOO-MII

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