泣きぼくろ 🌼

上月くるを

泣きぼくろ 🌼





 何十年にもわたる腰痛とのご縁をとり持ってくれたのは(笑)右脚の黒子ほくろでした。

 ふくらはぎと脛の間にあたる部分に、ぼてっと太筆の先でつけたみたいな黒い点。


 生まれたときからそこにあったので気にも留めていなかったのですが、あるとき、急に存在を主張し始めまして、痒いので掻くと、どんどん拡大し盛り上がって来て。


 一応、念のために大学病院の皮膚科へ行きました。いきなり大学病院というと現在では非常識な患者ですが、権威主義(笑)の当時はみんな初診から行ったものです。




      🏥




 診察の結果、悪性腫瘍に発展する前の予防措置として除去することになりました。

 当日、水色の薄い手術着一枚に着替えさせられて、がらんと広くて寒い手術室へ。


 手術台の意外な高さと狭さに慄いているうちに、右脚を上に、腰をぎゅっと捻ったポーズで固定され、いざ局部麻酔というとき、とつぜん緊急コールが鳴ったのです。


 何人かいた若い医師たちは、潮が引くようにいっせいに手術室から消え、寒い部屋にぽつんと取り残された患者は、不自然な捻りポーズのまま延々と待たされました。


 ご拝察のとおり、黒子は無事に除去されましたが、入れ替わりにヘルニアを発症。

 大学病院はこりごりでしたので、意地でも自宅療養で自然治癒を待ちました。💦




      🌺




 ところで、黒子といえば、楚々とした女性の涙袋のしたにある泣き黒子ですよね。

 残念ながら無骨なモモコには無縁ですが、同性でも、あの風情には心惹かれます。


 愁いを帯びたまなざしに、細い筆先でちょんと付けたようなチャーミングマーク。

 かつてモモコの右脚に居座っていたシロモノとは黒子の格がちがいます。(笑)


 親友のマリコは、その魅惑の泣き黒子のため、同性から敬遠されるときがあって。

 彼女とならべば引き立て役だもの……そんな気持ちも分からないではありません。


 でも、モモコは知っています、可憐な外見からは想像もつかないようなオトコマエな義侠心の持ち主であること 🍋 ジョークの連発は繊細な感性の裏返しであること。




      👗




 親友とは真逆で、見るからに頑健な体型、ぬぼうっとした風貌(笑)のモモコは、そんなマリコのすべてを心から慕いつつ、ときにはifの想像をしてみることも……。 

 


   胸もとの黒子の透けて夏衣          西宮  舞

   サマードレスの腕が伸びきり受話器とる    河野多希女


 

 こんな艶っぽい句を詠めるタイプだったら、わたしも少しはちがっていたのかな。

 小説だって、物語ならぬ物騙ものがたりてらいもなく書ければ大成したかもねえ。(^_-)-☆




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