エルフの少女の復讐譚

※第一章 終わる世界、始まる世界 12話までの感想です。
●感想
家族と故郷を奪われたエルフの復讐譚であり、美しいエルフの少女が、陰惨な過去から復讐に身を投じる姿は共感性も高く、面白みがあると感じました。

一章の過去の部分では、主人公の視点に絞った書き方となっており、子供にも読みやすく、話にも入りやすくなっており良いと感じました。

要素としてはエログロの特徴もあって、興味をひきやすくグッドでした。この過去を振り払い幸せをつかむのか、復讐に狂っていくのかと期待が持てました。

どう転ぶかわかりませんが、完結を期待いたします。


●気になった点(自主企画のため記載)
前提として、私としては、形はどうあれ完成させるべきだと思います。
それは、この作品の良しあしとは別に、chomochoさん自身にとって、この長編を完成させるということ自体が良い経験であり、一つの実績になると考えるからです。

以下の気になる点は、現在の書き方として、こういった傾向があるという参考として見て頂ければ幸いです。
この作品自体は書き直さず、このまま完成させることを期待いたします。

・作品のテーマ
『この物語は、重度の被虐趣味を持つ、変態エロフの物語。
~(中略)~とある、転移者と出会うまでの、回顧録。』

タイトルとしても、またナレーション調での紹介でも、これがテーマとなるかと思われます。
ただ、一章終了の三万字を超えた時点でも、このテーマの冒頭部分のみで、本文に入っていないと感じました。

この部分が、描写など他の気になった点にもかかってくるため、まず記載いたしました。
もし、これは興味を惹くために書いただけで作品とは関係ないということであれば、冒頭箇所は削除してもよいと感じました。


・描写
全体を通して、感想と説明だけで進むため、視覚的な情報が非常に少なく感じました。
例:第001話 私の10歳の誕生日
『春の訪れを感じさせるこの季節は、私の季節。
私の、お誕生日だから。
だから、私は桜が大好き。』
→物語の最初であるため、読者側では世界観や種族の特徴、村の様子、家の作りなど、全てがわからない状態です。現代の日本が舞台であればある程度想像できるかと思いますが、異世界であるため、情報が必要だと感じました。
記載例
『リグレイト皇国の北端、針葉樹に囲まれた森の一画は、桜色に色づいていた。
 桜の季節。ヨトゥン山の雪解け水が流れる川も、桜の花びらで色づいていて、春を迎えた妖精たちが水遊びをしている。このエルフの隠れ里も、なんだかウキウキとしていた。もちろん、わたしも。
 だって――
「うわぁ! お姉ちゃんっ! ありがとう!」
 春の訪れを感じさせるこの季節は、私の季節。
 私の、お誕生日だから。
「ははは─。ベルファ、喜んで貰えて良かったな? セスト、誕生日おめでとう。こっちは、パパとママからだ」
 木造りの家には「おめでとう」の声が溢れていた。私のパパ、ママ、お姉ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、みんな耳が長くて、顔立ちが整っている。家族だからというより、それがエルフという種族らしい。
 この世界には、いくつかの種族がいる』
上記は、こう書き直した方がよい、という例ではありません。
国など広い部分から描写し、どこに位置するどういう村で、どういう家で、どういう人たちがいるのかを説明し、後の襲撃に繋がる、他の種族の存在を示唆した例です。場所などの描写を行う場合は、広い場所から狭い場所へ移るように描写していくのが一般的です。

例:『自慢のお姉ちゃんだけど、流石のお姉ちゃんでも、こんな高価なものは用意出来る筈も無い。』
  『魔術書を使う姿に憧れたからだった。』
→魔術書についても、交易や、売買の方法などからエルフの社会的な位置づけの描写があれば、なぜ襲撃を受けるのかの理由付けなどにもなるかと感じました。
また魔術書に固有名詞をつけたり、姉はどういう魔術を使うのを見たなどがあれば、村の様子や魔術書の描写になるとともに、後の展開で場面が想像しやすくなると感じました。

例:
・第002話 村で起きた大事件
『醜悪な刺青のみ』
→主人公の復讐相手という重要な役柄の相手ですが、『醜悪な入れ墨』というのがどういう入れ墨かの描写は欲しいと感じました。具体的な想像ができず、印象がぼやけるため『背中にコウモリの入れ墨』など、イメージしやすい明確な情報があればと感じました。

例:『この森は、豊かで大きな森では在るが、村はそうでは無い。』
→こちらも、前提として、どういう風に大きな森で、村はそれに対してどのような様子で、外敵の侵入はこれまでどうであった、など描写があればと思いました。

例:第006話 これは悪夢の筈と
「あぐぁっ!?痛いよ!痛いよお姉ちゃん!どうして!?」
どうしてなの!?
→この前後はテーマと関わってきますが、視覚的な情報が非常に薄い描写のため、目隠しをしていてもしていなくてもあまり変わらない点。
目隠し前・中・後、いずれも加虐の描写が弱く感じました。音と声の描写に収めるのであれば飛ばしてしまってよいと感じましたし、ここを魅力とするのであれば、描写を厚くした方が良いと感じました。
麻薬や魔法などを使われて痛みと快感がごちゃごちゃになってしまい、現在もそれが続いている、などでもないため、テーマと関係ないだけでなく、復讐ものとしてテーマが邪魔になっている印象を受けました。私が見落としていたら申し訳ありません。

全部を細かく描写する必要はありませんが、重要場面やシーンの切り替わりの部分だけでも、視覚的に描写するようにしてみても良いと感じました。

・構成
一章は『現在』『過去』『ナレーション』の視点を用いて、セストの動機を描いているかと思います。
『現在』は役割としては、過去に興味を持たせ、テーマとのすり合わせを行うものとなるかと思います。
『過去』は一章の本旨であり、動機そのものなるかと思います。
『ナレーション』は『過去』の内容を補助、もしくは、まとめる役割となっていました。

例:
『おめでとう、セっちゃん!』
蘇る、幼少期の記憶。
この季節。』
→本文の初めであり、全体のイントロデュースにもなる箇所です。
そのため、本来は0話からの引継ぎとして『セストと転移者のやり取り』→『現在いる場所と、目的の提示』→『季節の描写から、同じ季節の8年前へ』という流れによって、作品世界の紹介と動機提示への移行が行われるかと思います。
ただ、現状の描写ですと、セストにも世界にも興味を持つ前に過去が始まってしまうため、『現在』の役割を果たせていないと感じました。

例:第002話 村で起きた大事件
『愛娘の幸せを願う二人は、セストが落ち込む姿など見たくは無いのだが。
「嵐になりそうね……桜も、散っちゃうかしら」
「仕方無いさ。この季節、時折こういった嵐が来るものだ」
春の嵐。
春嵐は何故か、人々に不穏なものを感じさせる。』
→セスト以外の視点になるため、ナレーションの視点になっているかと思います。
 ただ、前提として、これはセストの回顧録なので、そもそもナレーションがあるとしたら、それは誰かから聞いたものを繋ぎ合わせたセストの振り返りになり、視点は現在のセストと思われます。
 しかし、誰なのかがわからないナレーションが、事実だけでなく、人物の内面や、語りまで入れる作りになっており、違和感がありました。
 また、ナレーションの視点でも具体的な描写が薄く、内面的であるため、これならば姉や母などの視点の方が心理描写もしやすく良かったのではと感じました。

例:第011話 そして世界は終り
→ナレーションや説明でまとめてしまっており、過去のセストを通じて陰惨な村の様子も、家族の喪失も描写しておらず、動機付けの重要な部分が丸ごと抜けていると感じました。
また、ナレーションでまとめていますが、回顧録の体のため、ここを現在の視点で誰かに話す、事件について文字に起こしている、などで、動機から行動、過去と現在のリンクを行った方が良いと感じました。

構成は凝ると時間がかかるので、ある程度は手を抜いても良いと思います。
それぞれがどういう役割を持っているのか、その役割は必要か、という点を多少意識しても良いと感じました。


・ケアレスミス
下記は特に気にする必要はありませんが、位置的に少し目立ったので記載いたします。
例:0章
『不幸な、しかして少女の運命を決定付た』
→『付けた』。また、『しかして』は不要。

例:5話
その日を堺にして、
→境

はじめに記載したとおり、直す必要はありません。今後、描写や構成を考える際に、そういう意見もあったという程度に扱っていただければ幸いです。
あくまで、個人の感想です。もし疑問点等ありましたら、近況ノートやツイッターなどへお願いいたします。

全体としては、復讐ものである点やエルフの女主人公など、面白くなる要素の詰まったお話だと思いますので、ひとまず完結を期待いたします。