異世界魔法少女は王子様に恋をする。

●感想
謎の『創造神』により転移してしまった女の子が、異世界で王子様と恋をする恋愛小説と私は感じました。

スピード感のあるコミカルな口語調で書かれており、転移や魔法少女といった要素と合わせて、子供でも読みやすいお話になっていると言えます。

基本的な流れとしては、女の子が身分違いの恋をして、二人の環境の違いに懊悩するも、困難を乗り越えて結ばれる、という王道の展開となっており、コミカルで面白いだけでなく、恋愛小説としても楽しめる内容となっていると感じました。

恋愛の場面としては、
三話『声がインクのように掠れていませんように。そう願いながら声を振り絞った。』
など、少女漫画を見ているような微笑ましさがあり楽しかったです。

全体として、軽く読みやすい内容であり、異世界系というよりは、コミカルな少女漫画を読みたい時にぴったりなお話だと感じました。

●気になった点(自主企画のため記載)
下記はあくまで私個人の感想ですので、基本は聞き流す程度でお願いします。

・文章
異世界であるため、読者に想像してもらうためには、場所や世界に関する描写が必要になってくると私は感じました。
その前提に立つと、全体を通して、視覚的な情報が薄く感じました。
気になった箇所一部抜粋:
第一話
『今は薄暗うすぐらく、木の生い茂った場所にうずくまっている。』
→現実にあり得る光景であるため異世界に来た、という感覚が薄い点。
 その後の状況的に、庭園にかなり近い林か茂みと思われるので、ファンタジー世界のような場所や生き物、建造物の描写があればと感じました。
変更例:『なんでかな――目の前に、漫画で見るような、西洋風の大きなお城がある。まるでファンタジー小説の世界。ここは誰かの庭園なのかな。花壇には見たこともない虹色の花が咲き誇り、暖かな風に揺れている。噴水のまわりで飛ぶインコのような鳥は、キキッ、と猿みたいな声を出す。
これが良いというわけではなく、異世界感を強調した例となります。

ほか、『お城のような建物が見えてもずんずん相手は歩いていく。その目の前のお城(仮)』や『お金持ちというかだったらしく、飾っている絵とか、壺とかが豪華になった』など、描写をかなり簡略化し、想像をしづらくしているように感じました。

表情や服など、コミカルさを出す箇所や少女漫画風の箇所では細かく描写されていると思います。そのため、あくまで世界、空間、建物などの広い範囲での視覚的な描写に関する点となります。

・構成について
前提として、目的は三つ出てきます。
 神様は異世界の危機を魔法少女でもって救いたい。
 王子様は自分の国を守りたい。
 私(主人公)はとっとと帰りたい

神様は実際には『魔法少女を普及すること』が目的です。
王子様は『有力貴族が王権を脅かしている』ことが悩みです。
主人公は『帰って新刊を読む』が目的かと思います。

この場合、七話で『私の使命? 勝手に使命にされたお仕事は、終わりを告げた。』とありますが、神様の目的は達成されていない点が気にかかりました。

また『王子の婚約者はアンナでほぼ決まっていた』とありますが、今回逮捕された有力貴族の娘か、その一派の娘と婚約させられそうになっていることが悩みであったはずなので、少し疑問が浮かびました。

主人公の目的はコミカルさの演出だと思いますが、帰りたいという気持ちが薄いため、王子様に対する気持ちの対比として弱く、最後の場面の盛り上がりが弱くなる印象を受けました。

全体として、恋愛小説としての展開と目的、魔法少女や異世界という要素があまりかみ合っていないように感じましたので、たとえば以下のエピソードがあればと思いました。
例:魔法少女としての活躍のエピソードを増やして神様の目的を達成に近づける
例:分かりやすい敵役の貴族を用意し、その不正を暴いて失権させることが目標と明示する、
例:主人公が家族や友達を思い出して心を痛める場面がある。

コミカルさと恋愛の要素を優先しているというのも理解できるため、現状が悪いというわけではありません。

・ケアレスミス一部抜粋
・第一話 突然の転移
『国王と成り代わろうと』
国王に

『ほんと、すまん。けどワシ、どうしても異世界に魔法少女が広めたくてのぅ』
少女を

・第三話 勉強の日々
『何くれと情報をもらったり』
何くれとなく

第六話 力技で解決?
『包魔れる。』
誤字

『後ろ手を縄でキツく縛られ』
後ろ手に

・第五話 逃してみせる
『心こもる話し方で』
心のこもった

※気になった点はあくまで、個人の感想です。

全体としてはコミカルで読みやすく、中学生の主人公として考えると納得のいく、楽しい恋愛小説だと思います。今後とも色んな作品を書いていかれることを期待いたします。