デスゲームまずはペア決めが大変

巡ルコト一平

第1話 デスゲームはじまりはペア決めから


「授業終わったらスタバに行こうよ」

もちろん、彼女は僕に話しかけているのではない。僕の隣の女子に話しかけている。

微妙に僕と合わない視線が気持ち悪い。

僕は微妙に人と違う。人と一緒のものを見ても、まったく、別の回答をよくしている。だから、人に合わせるというものがとても難しい。合わせたつもりがずれていく。合わない線どうしはどこまでも交わらない。だが、僕は思うのだ。例えば、このクラスは30人いるが、一枚のA4用紙に30本の線がバラバラに乱雑に引かれたら何本かは交わる線ができるはずだ。その交わった線は仲良くできると思うのだ。いや、せめて、一本くらい交わっても良いと思うのだ。


だが、実際は線は誰とも交わることなく、専門学校の入学式も終わり、日差しもすっかり暖かくなり、早くも2か月が経過していた。すでに、仲の良い者同士は固まりをつくり、僕はすっかり輪の外に追い出されるようにして、日陰をさまよい歩くものとなっていた。だが、この学校、グループワークを行うことも多く、其の度に僕は心もとなく浮足立ち、輪を上げて中に入ることを試みようとするのだが、そのたびに自分に対して、眉毛をしかめる者たちの視線にすっかり、心も委縮し、今はただ、人の注目を浴びないように下を見ながら、ただ、時間の経過を待つだけの置物となるのが精いっぱいであった。

 中学の頃はそうでもなかったのだが、高校になってから、自分の殻を破ろうと無造作に伸びた髪を自分らしく短くサッパリさせ、私服登校可能な私立だったのでジーパンにカジュアルなシャツの少し昔のアメリカンスタイルで行ったら、腫物を扱うような視線か、もしくは最初からいなかった者のように扱われるのが多かったのだ。

 地方から東京の専門学校に出てきて、何か変わるかと思ったが、やはり何も変わらない。相変わらず、蚊帳の外なのだった。

 だから、今日のグループワークもそのように、自分は身をかがめ置物のように授業時間の終わりまで待っていれば良いと思っていた。

―それは勘違いだった。

 まずは授業受け持ちの先生がクラスに入ってくる。日直が「起立、礼」の号令をかけて、座るところまではいつもと同じだった。だが、うつむいた視線に飛び込んできた先生の声はとても震えていた。

「二人組のペアを好きな人と組みなさい」

 最悪だ。黙ってうつむくしかなかった。心拍数が上がるのが分かる。だが、それと同時に妙だとも心のどこかで思った。これまでもグループワークはあったが、いきなり好きな人と組ませることはまれであった。だいたい、適当に組み分けしてあることが通常だった気がする。でも、そんなこともあるか。

 次の瞬間に耳を疑った。

「ペアになったものはゲームに参加してもらう、そして、負けたペアは死んでもらいます」

え、思わず声が漏れた。聞き間違いだろうか。周りを見渡すと周りの者もそうだったらしい。みな白けた反応を見せている。

「先生、わらえなーい!」

あははと後ろの席のギャルな女子生徒の一人が声をあげる。この生徒は先生のジョークや呼びかけなどに対して、いつも反応している。その時以外はいつも寝ている。周りの生徒もつられて笑う。いつものクラスの雰囲気に戻っていく。

爆発音。

鼓膜が破れそうになった。その生徒の首に引っかけられている学生証が爆発した。


 顔に生暖かい何かが付着する。鉄臭い、どす黒く赤い血。

 四方の机の上におそらくは、破片が飛び散っている。

最初は状況がのみこめず静まり返る教室。瞬間、悲鳴があちこちから沸き起こった。教室から悲鳴が起こった。

「私語は禁止です」

教室は静まりかえった。

「クラスの人数は30人、二人組でペアをつくると15組、さあ、早く、先生も時間がないんですよ」

 何か、切羽詰まっているような先生。いつもの温厚な面影はない。よく見るといつもは見ないインカムのようなものを耳にはめている。まさか脅されている?


 僕はポケットティッシュで顔に付着した血をぬぐって、机の上に捨て置いた。瞬間、嗚咽のような声が響いた。生徒の一人が嘔吐している。

 「嘔吐している子がいるね」

 先生は舌打ちして嘔吐している子の前に近づいていく。

「気分は大丈夫かい、ゲーム参加難しそう?」

 心配そうな声音ではあるが、女子生徒は何とか頷いている。体調が悪いから自主休講します、とはおそらくならないだろう。

「他の子達も大丈夫だね」

誰も何も答えない。周りの様子を伺っている。静かな様子を了承と受け取ったのだろう。

「よし、始めよう!」

と手をたたいた。

「まずはペアをつくろうか、時間は5分だ」

よーい、はじめ!

 先生の一声で一斉に生徒はバラけた。みんな必死に自分の仲間を探す。当の自分は何も行動を起こせないでいる。グループの者たちは信頼できるものを我先にと集め、組んで、散らばっていく。3人や7人など奇数のグループで固まっていたものたちはまた、あぶれた者同士で組んでいく。仕方ない。グループをえり好みできない身分の僕は最後に余ったものと組もう。命がかかっているのになんとも投げやりな自分の答えだった。本当は能力のあるものと組むのがいいのだろうが、どうせ無理なのだ。高校からのトラウマで動く前から椅子に体を縛り付けられた。


「あと3分だよ、急いで!」

 教師の怒声が響く。ばらけるクラスの中からあぶれ出てくるものがいないか周りを見渡す。


「余っても先生と組もうなんてのはなしだからね」

と念を押す先生。

後ろの首から上がない生徒、彼女はゲームに参加できるのだろうか。いや、参加できるわけない。

 僕は急いで頭で計算を始めた。

30-1=29 14組あまり1。


― ひとり絶対にゲームに参加できない者が現れる。その生徒は死ぬ。


自分に怒りがわいた。

どうして、気づかなかった。1人ゲームから退場してるのだから、必然的にもう一人ペアになれないものがでてくるということだ。

 僕は最初からゲームのスタートラインにすら立つ権利がない。

 俺は心臓の鼓動がドクンドクンと鳴っているのがわかる。今さら、あぶれているものを見つけて、ペアなど作れるのだろうか。

 クラスのほとんどの者はペア決めを終了している。嗚咽が漏れそうになる。


 久しぶりに、真剣に目を凝らして周りを見てみると、、、、いた。グループから離れて、孤立している2人が。

1人は黒髪でロングの背の高い女子生徒、休み時間や昼飯時はいつも食事を終えれば寝てしまう、一匹狼というやつだ。

 もう一人は、あまり自己主張しない女子生徒。今も、辺りをキョロキョロと伺っている。おそらくグループから漏れたのだろう。ロングの女子に話しかけようとしている。

 なぜか、脳内にJRの電車の『無理なご乗車はおやめください』アナウンスが流れた。僕は急いで立ち上がり二人のいる席まで駆け込んだ。勢いあまって二人のいる席に突っ伏した。

「まって、まって!!!! ちょttっと」

 久しぶりに出した声はボリューム調整も忘れて、不釣り合いなほど、でかくなる。

二人の間に割って入り、早口にまくし立てる。

「僕と組んでください、お願いですから」

二人はぽかんとしている。当たり前だ。僕は改めて、控えめな女子生徒に声を掛けた。

「ねえ、お願いだから僕と組んでくれないか、頼む、頼むよ」

 懇願したが、ダメだった。

「ねえ、頼むったら、こんなむっつりした女子はやめて、僕とペアになろうよ」

首を左右にふられた。声さえ出してもらえない。

「あと1分ですよ」

 わかりました。もういいです。僕は不貞腐れた。未だ平然とした態度を崩さないロングの女子に僕は向きなおった。

「僕と組んでください、絶対に勝ち残りますから」

 彼女は僕に一瞥をくれた。

「いいわ、組んであげる」

 本当だろうか。

「本当よ、その代わり」

耳にささやかれた。

「本当にしないといけないですか?」

「ええ、やらないと組んであげない」

 いくらかの間をあけて考えを巡らせるが、堂々巡りでらちがあかない。なし崩し的にうなずいた。

「時間です、タイムアップ」

講師の言葉がクラスに響く。彼は生徒達の間を闊歩しながら歩いていく。

「はいはい、みんなちゃんとペア決めできたみたいですね、先生は嬉しいです、おやあ、この3人はどうなっているんでしょうかねえ」

「私はこの子とペアを組んでいます」

控えめな彼女は、今自分が組む約束を取り交わした女子を指差した。そこに今までの控え目さは見当たらない。はっきりとした声だった。

 僕は声がでなかった。

 黙って、また視線を下に下げた。先生と目を合わせられない。もう終わりだ―。


「違います、私はこの子とペアを組んでいません」

ロングの女子はさされた指を払いのけて、私を指差した。

「彼とペアを組んでいます」

 そして腕を組まれた。仲良くしてる者同士がするみたいに。ドキリとした。

 訝しげに僕と彼女の目を見る先生。

 生唾を飲み込んで、うなずいた。

わかりました。残念ですが、講師は、言ってつかつかと教壇に戻ると指を鳴らした。

 

「-よし、ペアを組んでくれて先生はうれしいです、では10分の小休憩をはさんでゲームスタートですよ」

意気揚々と弾む声を上げる先生の影で、僕はロングの女子に小声で尋ねた。

「本当にさっき言ったことをやらないとだめかな?」


「ええ、もちろん」

 返す言葉もない。

「なんだか、死ぬ前だと仮定してみたら、なぜだか自分でもわからないけど男子学生服を着てみたくなったの、あなたが死んじゃったら血で汚れてきれないでしょう」

といたずらっぽく言われ、冗談だか、本当だかわからず、僕はまた大きくため息をついた。

 まだ、ゲームのスタートラインに立ったに過ぎないのだ。ゲームが始まる。

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デスゲームまずはペア決めが大変 巡ルコト一平 @husumasyouzi

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