第12話 お姉ちゃんの秘密
ユウタは両親から、こってり絞られた。床下に入って遊んでいたことが、バレたのだ。
どういうことか分からないが、ユウタは床下で眠りこけているところを、帰宅した母親に発見されたのだ。
***
数日後。
床下から戻ってきた汗だくのおじさんに、タオルを手渡したのはユウタだった。
「ありがとう」
ガス会社の作業員だった。ハゲ頭で小太りの、あのおじさんである。
「異常はありませんでしたよ」
「そうですか。よかったぁ。全くこの子ったら、床下に入るなんて」
母親はそう言うと、その場を後にした。作業終了書類にはんこを押すためである。
ユウタとおじさんが、洗面所に二人きりになる。
「床下を遊び場にしてたんだって?」
おじさんはユウタに、愉快そうに話しかけた。気まずそうに頷いたユウタだったが、おじさんは「ハッハッハ!」と大きく笑っていた。
「分かるよ。おじさんも子供のころ、床下とか屋根裏とか、狭い場所に潜り込むのが大好きだったから」
「そうなの?」
「秘密基地には、もってこいだろう?」
驚き顔のユウタに、おじさんは頷いた。
「だからこの仕事いいなぁって思ったんだ。色んな家の床下に潜って、お給料もらえるんだから」
「確かに、いいね」
「だろ?」
二人の笑い声が静まってから、おじさんは囁き声でユウタにこんな質問をした。
「……君の家の床下にも、不思議な国はあった?」
ユウタは目を見開いて、どう言葉を繋いだものか迷った。
「おじさんの家にはね、将棋王国があったよ」
そしておじさんは、作業着のポケットから、あるものを取り出してユウタに手渡したのだった。
「これ、さっき点検してた時に見つけたんだ」
「これって……!」
ユウタの手の中に、
「君の家の床下には、タロットの国があったのかな?」
ユウタは質問をしようとしたが、叶わなかった。「お待たせしましたー!」と駆け込んできた母親によって、おじさんとユウタの秘密の会話は、それきりになってしまったのだった。
***
「姉ちゃん、これ」
その晩、ユウタはお姉ちゃんが部屋に一人になったタイミングを見計らって、愚者のカードを差し出した。
「あ!……これ、どこにあったの?」
驚くお姉ちゃんに、ユウタは顔を近づけて小声で答えた。
「床下」
「……」
「姉ちゃんも、床下にもぐったの?」
「……お母さんたちには内緒だよ」
しーっと人差し指を立てて、お姉ちゃんは眉根を下げた。
「占いするのに、いい場所だなって思って……ごめん、ユウタ一人だけ怒られちゃったね」
「それはいいんだけどさ」
ユウタはニッと笑った。誰かと秘密を共有するのは、特別ワクワクする。
「カード、もう失くさないようにね」
「うん」
「ねえ。今度お母さん達が留守の時にさ、一緒にもぐってみない? 実はね……」
ユウタのドキワク☆メーターが、再び上昇を始めたのは、言うまでもない。
床下の国のユウタ 松下真奈 @nao_naj1031
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