第11話 逃げて、逃げて
「捕まえろぉぉぉ!」
「逃がすなァァァ!」
ユウタはすぐに見つかった。
怒号と共に、ゆるキャラ達が追いかけてくる。H村のハライモ君、T市のドドラ、O市のウメウメちゃん。ざっと目に入ったのは、やはり姉のタロットに描かれたキャラクター達だ。
「まずい! 追いつかれる!」
逃げ足の早いユウタといえど、そして相手が着ぐるみといえど、相手は複数だ。五十六体もいるのだ!
「
説明通りに、お札を宙に投げた。
ボワン!
漫画のような効果音と、紫色の煙に包まれる。視界がクリアになった時、ユウタは無人の人力車に乗っていた。
「何だこれっ! 人力車なのに人がいない!」
何という矛盾だ。
ユウタを乗せたまま、車夫のいない人力車は猛スピードで走っていく。
「うわあ!」
「なんてことするんだ!」
途中で行く手を拒もうとするゆるキャラ達を蹴散らしながら、人力車は止まらない。ユウタは振り落とされないようにするのがやっとだった。
スピードが緩んだと気づいたときには、城壁の外へと出ていた。見覚えのある森が視界に入って、そちらへと進んでいるのが分かった。
「まてぇぇ‼」
蹄の音が聞こえる。馬が近づいてくる。
「やばいよ! 騎士たちだ!」
真剣を振り下ろされた恐怖の光景が、ユウタの脳裏に蘇った。
何としても振り切らなければ。痛いのは嫌だ。
ユウタは次の札を取り出した。
「これ、何が起こるんだろう?」
投げようかどうか迷っている間に、ユウタの手の中で、ぼわーんと小さな煙が発生した。
「瓶?」
手の中に、小さな茶色の瓶があった。
「飲めばいいんだな」
キャップを外して、一息で中身を飲み込んでみる。
「おいしい!」
ユウタの大好きな炭酸ジュースの味だ。嬉しくなるのと同時に、不思議なことが起こった。
「あれれれれ?」
人力車がどんどん遠くなっていく。というか、何もかも小さくなっていく。
「違う! 俺が大きくなってるんだ!」
ユウタが気づいたと同時に、遥か下の方から、いなっしー達の悲鳴が聞こえる。
「巨人だー‼」
「おお! めっちゃ進むじゃん」
ズドン ズドン と、ユウタが一歩進む度に地響きが起こった。馬に乗っていられなくなったササのすけ達が、慌てふためいている姿が見えた。踏まないように気をつける。
「ごめんね。俺、頼まれ事されちゃったからさ」
とりあえず遠目から愚者らしい姿を探してみよう。ユウタがそう思いついた時だった。
ワンワン! ワンワン!
森の中に、赤地に白いドット模様が見えた。ベニテングタケだ。ユウタが落ちてきた場所だった。
「ワンコ!」
白い犬がお座りするキノコの真上、空の真ん中に、黄緑色のドアがあった。
「もしかしてあそこから、帰れるのかな」
ユウタはドアに手を伸ばした。大きくなっているので、あっさりその場所に届いた。しかし、ノブを回しても、押しても引いてもドアは開かない。
「構えろー!」
「撃てー!」
「発射ー!」
「痛ぁ!」
チクチクした痛みを尻に感じて、下を向いた。なんと、ゆるキャラ達が弓矢を構えているではないか。
「酷いなぁ! 痛いじゃん」
「化け物! 効いてないぞ!」
「次、次撃てー!」
「効いてるって! 痛いって! もうっ!」
チクチクするばかりで、激痛ではない。けれどユウタは痛いことが大嫌いだ。ズボンのポケットから、最後の一枚を取り出した。
「何となく、こうするのが正解な気がする」
自分の右腕にお札を貼った。そして、ドアを思い切り押してみる。
「開いた!」
ドアが動いて、向こう側が見えた――見慣れた白いヘルメット。ライトはつけっぱなしで、真っ直ぐにユウタのことを照らしていた。
――帰れる
ゆるキャラ達がワーキャー騒ぐ声が、少しずつ遠ざかっていく。
身体の浮遊を感じた。
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