開拓者3

「ちょっとは落ち着いたみたいですね」

 ハナちゃんはお父さんの手当を一通り、それもテキパキと終えるとそう息を吐き出すようにして言葉を地面へと落とした。

 それだけで、不安が拭いきれていないのが分る。それでも、お父さんが落ち着いたのは確かだ。

「あ、ありがとうございます」

 どうすることも出来なかった私はお礼を言う事しか出来ない。

「礼を言われるほどのことはしてないですよ。でも、安心は出来ないです。傷口から毒が入っているみたいで今ある薬だけじゃどうしようもないんです。そもそも私は治療は専門外ですし、それこそミルカさんくらいでないとこれ以上の治療は無理だと思います」

「えっ。でもミルカさんって」

「森に住んでいるのは分かっていますが、フロンティアポイントに来るのは気まぐれみたいなものですし、宛もなく森に入ろうものならすぐに迷ってしまって、魔物に襲われかねません。そんなことをさせるわけにはいかないです」

 ハナちゃんの言うことも最もだ。ミルカさんの森に入ることは大人たちもめったに入らない。それ故にミルカさんが森のどの辺りに住んでいるのか知っている人もいないんだ。

「だったら。お父さんはどうなるんですか」

「それは……なんとかします。うちのお父さんだってきっとなにか情報を持っているでしょうし、他のみんなにも聞けばきっと助かるはずですって。ねっ。だから、今は信じましょう」

 ハナちゃんが必死になっているのは、私が勝手に森に行ってしまうことを心配しているのだろう。

「不安なのはわかりますから」

 そう言ってハナちゃんが抱きしめてくれる。ちょっとだけ鉄の匂いがするのは鍛冶屋さんだから。ドワーフ特有の身長の低さから歳の割にはがっしりとした身体に包まれると安心する。

 ハナちゃんはちょっとだけ年上なだけなのにな。どうしてこんなにも頼もしいのだろう。今にも飛び出してしまいそうだった気持ちが落ち着いてきた。

「うん。わかったよ。みんなを信じる」

 そう言うしかなかった。これ以上、ハナちゃんやデリー親方に迷惑はかけられない。

 ミルカさんが都合よく村を訪れてくれれば良いのだけれど、そんなことは期待できない。

 幸いお母さんとミルカさんの仲は良かった。それとなくだけど、ミルカさんがどのあたりに住んでいるのかも聞いている。

 みんなは信じる。

 でも、自分でできることがあるならそれはすべきだと。そう思うのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フロンティアポイントの開拓者たちってこんな感じ? 霜月かつろう @shimotuki_katuro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ