開拓者2
息が切れる。肺に空気が上手に入っていかない。
だからだろう。身体がだんだんと重たくなっていくのが分かる。
それでも足を止めることはしなかった。身体が悲鳴を上げることより不安が勝っていたから。
お父さん。いなくなっちゃやだ。
思い出すのはお母さんが帰ってこなかった日のことだ。
あの日、お母さんはお父さんとふたりで開拓にいつもどおりでかけた。
でも帰ってきたのはお父さんだけだった。それも体中に怪我をしていた。開拓先で魔物に襲われたと聞いたのはお父さんが動けるようになってからだ。
お母さんのことを何度も聞いたのだけれど、お父さんは教えてはくれなかった。
知らないんだ。
そう言い張った。
多分嘘だと思っている。
きっと、お父さんはお母さんの最期を見てしまったんだ。それを思い出したくなくて知らないと言い続けてるのだ。
その気持ちは分かる。
だから、お母さんのことをそれ以来言及したことはない。お父さんの辛そうな顔をそれ以上見たくなかった。
「お父さんっ」
家に着くなり大声で呼ぶけれど返事はない。寝ているはずの奥の寝室まで走り込む。そこにはお父さんが横たわっていて苦しそうに呼吸している。それはただの二日酔いには見えなかった。
「お父さんっ。大丈夫」
「ああ。ロゼッタか。こんなの大丈夫さ。すぐに治るさ」
そう言うもののお父さんは辛そうだ。
「嘘言わないで。怪我してるでしょっ」
布団をめくる。そこには赤く染った包帯が巻かれている脚が見えた。
「き、傷自体は大したことはないんだ。ただ、ちょっと血が止まらなくてな」
「それは大したことないなんて言わないっ。いつも使ってる薬草はっ」
「もう昨日試したさ。だからすぐに良くなる」
そうなのだったら、それは薬草は効いていないことになる。
「もっと良い薬草を買ってこないと。ちょっとまっててね」
「ロゼっ。ハンガさんは大丈夫ですか」
私が部屋を出ようとするのと同時に家に誰かが入ってきた。
「ありゃ。こりゃ酷いですね」
「ハナちゃんっ」
デリー親方の娘のハナちゃんが来てくれた。
「グレイさんがうちに来て、ハンガさんがもしかしたらって言うから親父に店を任せて駆けつけたんですよー。その様子だと来て正解だったみたいですね。とりあえず包帯交換するからロゼは換えの包帯用意して下さい」
テキパキと指示を出してくれるハナちゃんの言うとおりに動く。そうしている間に冷静さを取り戻し始めていた。
大丈夫。
お父さんはいなくなったりしない。今はそう信じて手当をするしかない。自分にそう言い聞かせてハナちゃんの言うことを聞き続けた。
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