第14話 毒に関する事件は遠慮したい!

「ん?」

 三人で医務室から廊下に出ると、何やら騎士達が騒がしいことに気づく。

 二階から騎士が数名駆け下りて急いで玄関に向かっている。

 それを見て、私は妙な胸騒ぎを覚えた。


「何かあったんですかね?」

「招集か?」

 シュレムとミリアはそう言うと私の方をじっと見た。

 えっ、なんで見るの? ねぇ? と二人を問い詰めたくなったけど、私は気にしたら駄目だとスルーして先に進んだ。


「また事件があったりして」

「ありそう」

「ちょっと、二人とも! なんて縁起の悪いことを言うの!? いい? 私の国では言霊っていうのがあるの。口にしたら本当になっちゃうからそういうこと言わないで。それにそんなに毒に関する事件やトラブルなんて起こらないわよ。桜乃国でも起こらなかったし」

「でも、姫様。ノーザンに来て初日に2回事件が起こったんですよ? これは毒神様に愛されているんじゃないですか」

「私が愛されたいのはリヴァイス様だけよ。早く行きましょう。リヴァイス様が待っているんだから」

 胸騒ぎしている上に、ミリア達が不吉な事を言うから不安になった。


(まさか、本当に事件が起こっているわけないよね?)


 とにもかくにも、さっさとこの場を離れた方がいい。

 本能的にそう思った私が急いで騎士の宿舎を出ようとした時だった。

「あっ、姫様じゃないですか!」という声が背後から聞こえてきたのは。


 もし時間を巻き戻せるならこの時の私に言いたい。

 足を止めるなって――


 呼ばれたのでつい足を止めて振り返れば、副騎士団長のナーゼの姿があった。


「ちょうど良かった。姫様に会えて」

「えっと……」

 なんだろう? この流れはあまりよくない気がする。


「実は王都でちょっとしたトラブルがあったんです。商会の者と仕入れ業者で大揉めして暴動寸前なんですよ。それでうちが駆り出されました」

「大変ね。原因はなに?」

「注文したものと違う商品が届いたそうです。芋なんですが毒があるんです」

「「「毒」」」

 私とミリア達の声が綺麗に重なった。


 まさか、また毒に関することが起こるなんて。

 しかも、これからリヴァイス様とのデート前だし。


「商会側はちゃんと注文したと言い、仕入れ業者は注文書どおりだって言っているんです。しかも、大量注文。毒芋が大量にあっても食べられません。返品されても困るので責任の押し付け合いになっています」

「どちらかが間違えているってことよね?」

「おそらく」

 これは私の出る幕ではない。

 注文書見れば一発でわかることだから。


「姫様。なんとかできませんか?」

「なんとかって言われても……私、万能の神様じゃないんですけど。というか、毒芋って絶対に食べられない毒芋なの?」

「「「は?」」」

 三人はこいつ正気か? という表情を浮かべながら私を見始めた。

 

 毒が含まれている芋だからって、全部が全部食べられないわけじゃない。

 青酸配糖体が含まれる芋、シュウ酸カルシウムが含まれる芋……毒が含まれている芋の種類によっては、加工・調理の過程で毒を中和して食べている国もあるくらいだ。


「毒があっても食べられるのは姫様だけですよ。普通は無理です」

「全部が全部じゃないけど、食べられるものもあるの。加工や調理の過程で毒を抜いたり減らしたりしてね」

 たとえば、ワラビ。ワラビは100%発がんする成分・プタキロサイドを含んでいるので、灰汁抜きをして食べる。

 灰汁抜きをすることにより、プタキロサイドが分解または大部分が捨て汁の方へいくのだ。


「桜乃国にこんにゃく芋っていうのがあるんだけど、その芋にはシュウ酸カルシウムという劇薬指定の毒の成分があるの。生食や焼いても食べられない。でも、加工の過程で食べられるようにするのよ」

「桜乃国の人間はそこまで食に関して強いこだわりが……」

「最初に食べようとした人すごいわよね。だから、植物学者か薬師を呼んで一度見て貰うといいわ」

「ちなみに姫様は?」

 ナーゼに尋ねられ、私はそっと視線を逸らした。


「……」

 どっちの資格も有している。

 ここでそれを言ってしまえば、確実に連れて行かれるだろう。

 そうなってしまえば、私とリヴァイス様の初デートがキャンセルに!

 それは本当に無理。初めての初デートだもの。


「姫様、持っているんですね」

「え、あっ、ちょっと!?」

 足を踏み出して逃げようとしたんだけど、がしっとナーゼに腕を掴まれてしまう。


(つ、強い……さすが騎士)


「行きましょう、姫様。毒のことなら姫様が適任です」

「私、デートが! デートが!」

「陛下なら許して下さいますよ。人助けなんですから。陛下とのデートなんていつでも出来ますよ」

「どうしていつもリヴァイス様と二人きりになろうとすると事件が起こるの!?」

 私の抵抗むなしく、日頃鍛えている騎士には勝てずに連れて行かれてしまう。

 

 もしかして、毒に関する呪いでもあるのだろうか?

 なぜこうもうトラブルが起こるのだろうか。


「私はリヴァイス様との時間を楽しみたいの。だから、毒に関する事件は遠慮します!」

 私は引きずられながらそう大声で叫んだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜乃国の毒姫は陛下と二人の時間を楽しみたい!~毒に関する事件は遠慮させていただきます~ 歌月碧威 @aoi_29

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ