第13話 一週間後
事件から一週間後。
私は木竜騎士団の宿舎にある医務室を訪れていた。
ベッドにはファルが休んでいるんだけど、その傍にはシュレムがいる。
シュレムは休憩時間などにファルの様子を見に行っているみたい。
私が傍に行くとシュレムが姿勢を正して頭を下げれば、休んでいたファルも動き出す。
ファルはたしかに回復したけど、万全ではない。
そのため、私はファルに休むように制止したけど、彼は首を横に振って体を起こした。
「体調どうかしら?」
「姫様の解毒剤のお陰でこうして起き上がれるようになりました。ありがとうございます」
最初ここで会った時は意識が朦朧としていたようだけど、今は顔色も戻って話が出来るまでになった。
あの後すぐに毒入りのクッキーを解析したら、やはり私の予想していたとおり。
とある花のものだった。
すぐに解毒剤をつくり、ファルへ。その後、彼は解毒剤と軍医の治療により、少しずつ復活している。
ファルが婚約者がいるのに他の女性に手を出したことは、騎士団の規律を乱したと判断され処罰もあるみたい。
でも、それは完全に回復してからって聞いた。
「クッキーに含まれていた毒は、とある花の毒なの。あれは花も葉も根も全て猛毒。罪悪感に駆られたのかもしれないけど、毒物は口に入れない方がいいわ」
「それ、姫様が言います? あの後、また陛下に怒られていたじゃないですか」
「そ、それは……」
シュレムに言われて私は口ごもってしまう。
(クッキーを食べたことを咎められたんだよね。一日で二度も心臓が止まりかけたって。その結果、初日のリヴァイス様との二人きりの時間はお説教で終わっちゃった……)
「私はいいの。毒姫だから。普通の人は真似しちゃだめ。今回は助かったけど、次はわからないわ。含有量によっては死に至るくらいの毒。次からは気をつけなさい。可愛らしい花だけど、葉も花弁も全草が猛毒なの」
「その花の名前を聞いても?」
シュレムに尋ねられたので私が花の名前を言えば、彼は口をぽかんと開けた。
「え、それ俺の実家にもあります! あの花って毒なんですか!?」
「そう、毒。毒のある植物は身近にあるの。スズランもそうだし。モロヘイヤだって種は毒よ。オリトリサイドという強心成分があるから」
「意外と身近にあるんですね」
「でも、毒は薬にもなる物もあるわ。表裏一体ね」
最強の毒の一つと言われているボツリヌストキシンは美容などにも使われているし。
日々、研究者によって解明されていくから科学ってすごい。
「……姫様」
「ん?」
ファルに呼ばれて、私は彼を見る。
「俺、回復したら自分のやった事にけじめをつけます。婚約者に対しても相手に対しても」
ファルの台詞を聞き、私はただ「わかった」と言って頷くしか出来なかった。
全ての原因は彼。報いを受けるのは当然かもしれない。
ただ、彼は自分の罪に苦しんで毒の入ったクッキーを食べた。
それを知っているから、どんな言葉をかけていいのかわからない。
頑張ってっていうのも違うだろうし。
難しい……
「姫様―っ! そろそろ、陛下とのお時間ですよ。待ちにまったデートです!」
医務室にふさわしくない元気な声が扉付近から聞こえ、私は弾かれたように顔を向けた。
そこにはこちらに向かって大きく手を振っているミリアの姿が。
どうやら私のことを呼びに来てくれたみたい。
「いま行くわ」
これからリヴァイス様に王都の城下町を案内して貰う予定。
この一週間はすれ違いの日々だった。
リヴァイス様が執務や外交で忙しく、二人の時間が合わなかったのだ。
なので、リヴァイス様が時間を取ってくれたので今日はやっと念願叶ってデート!
二人でまったり城下町散策に行くことになった。
「ファル。俺も姫様と一緒に行くよ。またな」
「あぁ、気をつけてな。姫様も陛下との時間を楽しんで下さいね」
「ありがとう。じゃあ、またね。ファル。くれぐれも無理はしないようにしてね」
私が手を振って彼に別れを告げれば、ファルは深々と頭を下げた。
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