第12話 花言葉の別の意味
「ファルは知っていたんです。このクッキーに毒が入っていることを。それでもこのクッキーを食べました」
「どういうことだ?」
「普通、クッキーって甘くないですか? このクッキー、苦いんです。おそらく、クッキーの中に入っている花弁と葉が原因でしょうね」
「クッキーの中?」
「えぇ。これをご覧下さい」
私はクッキーを一枚手に取ると割って断面を見せた。
クッキーの中には乾燥してすりつぶした花弁や葉が窺えるんだけど、毒の正体はこれだ。
「食べないで下さいね。それが毒の正体です」
「これが……」
「苦みを伴うので食べたら気づきます。違和感を覚えて吐き出す。でも、ファルはそれを食べて中毒症状を起こした。ファルはきっと犯人を見つけて欲しくないですし、この件を大ごとにして欲しくないと思います」
「どういうことだ?」
「シロツメクサの花言葉をご存じですか?」
私の質問にリヴァイス様が首を横に振ったので、私はミリア達の方へと顔を向ける。
すると、顎に手を添えたミリアがゆっくり唇を開く。
「たしか幸福だったような……」
「そう。幸福」
「ますますわからなくなりました」
「花言葉にはいろいろな意味が込められている。良い言葉も悪い言葉も」
私は本棚に向かって歩くと、花言葉の本を取り出した。
そしてパラパラとページを捲ると、シロツメクサの項目を開いてリヴァイス様達に見せる。
「シロツメクサは幸福って意味もあるけど、復讐って意味もある。そして、もう一つの花はシレネ。偽りの愛という花言葉です」
「復讐……偽りの愛……そういえば、木竜騎士団って女性遊びであまりよくない噂ありましたよね? えっ、まさか婚約者がいたのに他の女性に手を出してその人から復讐されたってことですかっ!」
ミリアが目を見開きながら大声で叫べば、「あっ!」という声が廊下から聞こえた。
(ん? 外の見張りの騎士かしら? どうしたんだろう。急に大声出して)
すぐさまナーゼが廊下に出ると、引きずるようにして一人の騎士を連れてきた。
「おい、ラグ。お前、何か知っているな。言え!」
「絶対に俺が言ったって言わないで下さいよ。あの……俺、何度か目撃したんです。ファルが酒場のリリーと腕を組んで歩いているのを。付き合っていると思っていたんです。でも、先週婚約者が挨拶に来て……あっ、これ二股か? って気づいたんですよ」
ばつが悪そうな騎士の話を聞き、ナーゼは目を細めた。
「うちの騎士団の風紀はどうなっているんだ!」
「俺は大丈夫です! 遊んでいるやつもいますけど」
「これが終わったら全員の身辺調査を行う。風紀を乱すやつは許さん。まさか、このような結末になるなんて」
ナーゼは深いため息を吐き出した。
「つまり、この事件の真相は婚約者がいるのを隠して二股をかけていたのが原因。彼女はファルが自分以外の女性と結婚することを知り、自分を裏切ったファルに復讐するために毒入りのクッキーを渡した。ファルがクッキーを食べたのは、自負の念に駆られてか?」
リヴァイス様の問いに私は頷く。
「えぇ、おそらく。だから彼は違和感に気づいたけど食べたんだと思います。プロポーズのために花言葉に詳しくなり、栞を見て彼女の復讐に気づいたのかも」
解毒剤は作れるけど、でも……
私は頭を抱えてしゃがみ込んでいるシュレムを見た。
やっぱりショックに決まっている。自分の親友が二股かけて殺されかけたんだから。
きっとシュレムはファルがそんな事をしているなんて知らなかったと思うし。
「ねぇ、シュレム」
私は彼に近づくと、かがみ込んで彼の肩を叩いた。
「今は頭が混乱しているかもしれない。でも、貴方はファルの傍にいてあげて。私は解毒剤を作ってくるから。彼が落ち着いたら話をすればいいわ」
私の言葉にシュレムは小さく頷いた。
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