第3話 晩酌の友
不思議な夢を見た。
私は畳敷きの空間で一人晩酌をしている。
ふと前を向くと、旅館の番頭さんが着る様な半纏を着た、小型犬サイズの何かが
その何かがゆっくり顔を上げた。家守だった。
私は手に持った梅酒の瓶から平皿に酒を注ぐ。家守は平皿を見ると、嬉しそうに舌を伸ばした。
私はそのまま家守と晩酌を楽しむのだった。
今朝も朝のひと仕事を終え、家を後にする。仕事場ではまず鏡で身なりをチェックする。たまに髭を剃り忘れて居たり、帽子で髪に癖が付いていたりするからだ。
少なくとも人と会う仕事をしている以上、最低限の身嗜みには気を使いたい。これ以上、娘たちに馬鹿にされたくないという意地でもある。
仕事自体は個人経営の一人親方である為、時間に自由は利く。自由時間が多いというのはサラリーマンから見れば羨ましい限りなのだろうが、その分無収入。仕事場に一人で引き籠っているというのも案外ストレスになるぞと言いたい。人間関係のストレスを抱えた安定収入か、日々の生活不安にストレスを抱える自営業か。なかなかスリリングな選択肢である。両方にストレスを抱えるブラックと呼ばれえる企業人はご免こうむりたいが。
本日の業務もつつがなく終了。片付け掃除を行ってから家路につく。基本的な買い出しは、休みの日に
家に着き、夕食、片付け等もろもろを済ませ、風呂に入る。やや熱めの風呂に思わず声が漏れる。今や爺臭いと文句を言われる事も無い。ゆっくり手足を伸ばし緊張をほぐす。あまり仕事が無くとも疲れるのはなぜなんだろうか。暇疲れ、何とも言えない言葉である。
風呂から出るといつもの晩酌。今日の肴は期限切れ間近のピリ辛煮卵。ハサミで袋を切り、深皿に盛りつける。切れ込み線があるのに鋏を使う。悔しいが手で綺麗に切れず、よく汁を飛ばしてしまうから仕方がない。小さな事だが本当に癪である。
この歳になると小さな事だが癪に障ることが増えてくる。ビニール袋がうまく開かなかったりスマホのパネルが言う事を聞かなかったり。こうして頑固爺になって行くのだろうか。
ふとテーブルの隅を見る。家守がいた。体長は15センチくらいだろうか、かなり大きい方だ。この家ではまだ一度しか見た事の無いサイズ。しかし、なぜテーブルに。
不意に今朝見た夢を思い出す。冗談気分で平皿を出し梅酒を注いでみる。
見ていると家守がササッと動いて平皿に乗り梅酒に舌を伸ばした。
「家守って梅酒飲むんだ。」
いや、ありえないだろう、でも目の前で飲んでるし。
考えるのは止めよう、今は晩酌に付き合ってくれる友が出来たことを喜ぼう。
家守とおじさん @aozora @aozora0433765378
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