第2話 気が付かなかった想い

 この所、休みの日はいつもゴミ出しをしている。この地域のゴミ出し回収は、可燃ゴミが週二回、不燃ゴミが月二回。粗大ごみや危険物はまた違った扱いになっているが、その辺はあまり詳しくない。別に妻に任せきりだったからと言う訳ではなく、余りそういったゴミを出した事が無いからだ。 

「結構大物の要らないモノが溜まってるな。」

 昔のブラウン管テレビ、壊れた洗濯機、使えるが型の古い扇風機、健康器具、古くなった炊飯器。中には燃えないゴミで出せる物も有るのだろうか。市のHPを見れば、ゴミ出し検索の専用アプリがあるようだ。早速ダウンロードしこれらのゴミを検索、炊飯器、小型の扇風機は不燃ゴミで出せるようだ。

 ブラウン管テレビは業者に頼めと、これは後でいいか。こうしてごみ屋敷は形成されていくのだろう。


 そろそろ庭先の雑草も取らないといけない。かなり伸び放題になりつつある。庭木も定期的に選定しないと、家全体が薄暗くジメジメした状態になってしまう。庭のある家も考えものだ。妻がいた頃はこれらの作業を私が引き受ける代わりに、こまごまとした日常的な家事を彼女が行っていた。私も出来る方ではあったが、日々の料理を作るのはそれなりに負担になるものだ。何を作ろうか思いが浮かばず、つい単調なメニューになってしまう。妻の料理には満足していた。日々こちらの事を考え料理をしてくれていたのだろう。何を食べたいのか聞かれつい何でもいいと答えてしまっていたが、考えなしだった。この頃はよくそのことを実感する。

 草むしりは根気がいる作業だ。しっかりと根から取らないとすぐに新しい芽が出て来てしまう。茣蓙ござや段ボールを敷いて膝立ちで行うのがコツである。頭に鍔の広い麦わら帽子を被り、腕には昔の村役場事務員がしていたような前腕カバーを装着。首にはタオルを巻き、滑り止め付きの軍手をして只管ひたすら草をむしる。

 携帯ラジオからはお笑い芸人の軽快なトークが聞こえてくる。以前はスマホの音楽アプリを再生していたが、ウォーキングの時は音楽の方が良かったのだが、草むしりの様な単調な作業の時は人の会話が聞こえていた方が気が紛れる様だ。


 二時間ほどの作業で、玄関先から見える雑草はあらかた取る事が出来た。これだけでも随分庭が広く見える。午後からは植木の伸び過ぎた枝を選定しよう。昼食を食べる為めに家に入った。


 午後からの選定作業はかなり捗った。現在この家は一人暮らし。訪ねてくる客人も数えるほど。庭師でもなくまた園芸の趣味もない自分が、無理に格好付けた刈込が出来る訳もない。「鬱陶しい枝を切って全体を明るくする。」その事だけを考えて枝切りバサミを振るう。

 刈込は二時間ほどで終わりにし、切った枝を裏庭の枝葉を溜めておく場所に捨てに行く。先代や先々代当たりならかまどの火付けや湯沸かし用のマキとして活用出来たのだろうが、ガスコンロやガス湯沸かし器全盛の昨今、これらの枝は行き先を失って久しい。かと言ってやたらに焚火も出来ない、世知辛い世の中である。


 ゆっくり風呂に浸かり、今日の作業の疲れを流す。この歳になると筋肉痛が二日後に出たりするので油断できない。風呂上りにはしっかりマッサージをし、身体の疲れを癒すとしよう。 

 夕食を食べ、食器を片した後はいつもの晩酌。今日のツマミはお饅頭。酒のツマミに甘いものと聞くと首を傾げる人もいるが、元々下戸の私は辛くても甘くてもどちらでも行ける。拘りは無いのだ。


 ふと顔を見上げると、漆喰の壁に家守が張り付いていた。部屋の中で彼らを見るのはまだ二回目。これは結構レアなものを見たものだ。まあ、今この家には私しか居らずうるさく言う事もないだろう。家守相手に杯を上げる。そんな自分が可笑しくなり、口元に笑みを浮かべた。

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