家守とおじさん
@aozora
家守のいる家
第1話 おじさんの日常
「そろそろこの部屋も片さないとな。荷物が増えてごみ屋敷になるのも時間の問題だぞ。」
この家で独りになって、かれこれ三年。最近はどうも独り言が増えている気がする。話し相手がいないと言葉が出なくなるというし、喉と口角の訓練だと思えば気にもならないか。精々人前では気を付けるとしよう。
今日は水曜日でごみの日か。前の水曜日はうっかり出し忘れ、暫くパンパンに詰まったごみ袋を台所の角に転がして暮らす羽目になった。これでずるずる放置すればあっという間にごみ屋敷の完成だ。それはさすがに嫌だな、さっさと捨てに行くとしよう。
玄関を出るとポストにピンクのビニール袋に包まれた何かが見えた。近づいて取り出すと、町内会の回覧板だった。誰かは知らないが、雨対策にビニール袋へ包んでくれたのだろう。このところの天候はかなり不順だ、気の利いた御仁もいたものだと感心する。
一通り目を通すも此れと言って気を引く事も書いてない様だ。たまに班ごとで行う集団清掃の日程など、地域で暮らすには無視出来ない内容もあるので、軽軽に扱う訳にも行かないのだが。自分の確認欄にサインを入れ、ごみ捨てのついでに隣の家のポストに投函する事にする。
道すがらブロック塀に目を遣ると、小さなヤモリが日向ぼっこをしている姿がみえた。子供たちがまだ小さい頃、このヤモリを捕まえて飼おうとした事がある。ネットで飼い方を調べ、餌になる昆虫を探しに虫取り網を持って走り回ったものだ。ヤモリの餌は生きた昆虫との事で、数日昆虫採集に明け暮れた。此れはたまらないと、子供が飽き始めた頃合いに説得し解放する事にしたのだが。
「おい、お前は捕まるなよ。」
そう声を掛け、再びごみ捨てに向かうのであった。
朝は以外と
世の既婚女性はこれ等の"家事"を文句も言わずに当たり前の事としてこなしているとか。全く頭が下がる思いだ。人は経験しないと分からない、まったくその通りだと思う。後悔先に立たず、今はただ日々を過ごすのみ。
其れなりに満足はしているのだから。
近頃梅酒を飲む様になった。随分と前に庭の梅の実をもいで浸けたものだ。
私は生粋の下戸である。為に晩酌すらしていなかったのだが、いつまでも手も付けずに置いておくのも気に掛かる。自分に合った量を沢庵を肴にちびりちびりいただく。台所の窓の外には二匹のヤモリがへばり付いていた。今日の狩りはおおむね成功したのだろうか?
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