第54話 夏休みの前に




 夏祭りも終わり、いよいよ夏休みが近づいてきた。


 高校生活のビッグイベントの一つである夏休み。生徒たち全員浮き足立っている。



 しかし、その前に超えなければならない大きな壁が存在する。



「さ! さとっちん! ねねっち! はなちー! 期末試験に向けての勉強を始めるぞい」


「「「はーい」」」



 そう。期末試験である。


 期末試験まであともう少しということで俺達4人は図書室で勉強会を開いていた。



「赤点を1つでも取ったら夏休み期間に補習だけど、さとちんは大丈夫?」


「………………ぅん」


「絶対大丈夫じゃないやつでしょ……しゃーない。今回は特別、私が勉強を教えてあげる」


 目を逸らす俺を見てはぁーとため息を吐きながら言った。


 え、黄瀬さん? 華や寧々ではなく? 黄瀬さんなの?



「お? さとっち君? なにかな? その不安そうな顔は?」



 痛い痛い、脇腹を突かないで欲しい。



「いや、黄瀬さんに勉強教えてもらうなんて不安しかないんだけど」


「失礼すぎない?」


「そもそも出来るの? 勉強。この前の試験の成績どれくらい? 学年10位以内には入ってる?」


「前の試験結果学年3位だけど」


「生意気なこと言ってスンマセンでした……ご指導のほどよろしくお願いします……へへ」 


「さとっち、プライドもクソもないね。ほら、さっさとノート開いて」


「はい!!」



 黄瀬先生のありがたいご指導を受けさせて頂くことになった。



「寧々ちゃんは今回の試験はどんな感じ?」



 向かい側に座っている寧々と華の会話に聞き耳をたてる。

 


「私も今回は少し危ないかも」


「え? そうなの? 寧々ちゃんこの前の小テストとかも点良かった気がするけど」


「この調子だと学年10位以内がちょっと怪しいかなって」



 危ないのレベルが違いすぎる


 寧々のお父さん厳しそうな人だから、求められるレベルも高いのかもしれない。



「………………」



 視線を感じたので顔を上げると華はこちらをじっと見つめていた。



「ん? 華? どうかした?」


「え、あ……ううん。何でもないよ」


「そっか……」


「………………」


 

 やはり、何かを気にしているように俺のことチラチラと見ている。それになんだかソワソワしているような……俺に何か用事でもあるのだろうか?



 うーん……どうするか。



「ごめん、ちょっとお手洗いに」



 黄瀬さんに断りを入れて図書室を出る。


 もし、華が俺に何か言いたいことがあるのならきっと後をついて来るはず。


 ……………………


 よしそろそろ振り返っても良いだろう。


 ばっと後ろを見ると誰も居なかった。


 ………………あ、あれ? 居ない。華も後をついてくると思ったのに。


 あれ? もしかして俺の思う過ごしだったのか?


 ……は、はず


 黒歴史を生み出してしまったことに頭を抱えながらトイレに行く。


 手を洗い、トイレから出るとー



「わっ……!」


「うわ!?」


「えへへ……びっくりした?」



 いたずらが成功して喜ぶ子供のような表情の華がそこに居た。



「お、おぉ……そりゃ……まぁ」


「ちょっと十兵衛くんに話したいことがあってね……あとを追いかけてここで待ってたんだ」



 あ、良かった。俺の自意識過剰じゃなかったみたいだ。


 というより、心なしか華のテンションが高い気がするのは気のせいだろうか?


「この前の夏祭りに話していたこと覚えてる?」


「え? 話してたこと? 夏休みなにして遊ぶかってやつ?」


「そうそう!! じゃん! 見てこれ!」



 彼女がポケットから取り出したのは。



「実は先週ね、抽選で当たったんだ!! 特賞! 温泉旅館チケット!」


「……おぉ! それはすごい。なかなか持ってる人だよね。はーちゃんって」


「ふふん。そうでしょ? もっと褒めてくれても良いんだよ?」


「あはは……家族で行くの? 楽しんできてね」


「え?」


 ……え?


「やだなぁーもうー!! 十兵衛君と二人で行くに決まってるでしょ」



 ???


 俺と華が二人で?



「もー! 花火見ながら二人で、静かなところでゆっくりしたいねって言ってたじゃん。忘れちゃったの?」



 ぷくっと頬膨らまして拗ねるはーちゃん。


 いや、言ってたよ!? 言ってたけど!! 俺と二人なの? 普通に家族と行くと思うじゃん!!



「いや。あの……高校生二人だけは泊まれないでしょ……」


「確認したら親の同意書さえあれば大丈夫だって」



 そっかぁ……大丈夫なのかぁ……



「で、でも……俺と二人きりで泊まるのは嫌でしょ? 正直に言ってもらっていいよ?」


「いやじゃないよ? そもそも嫌なら誘わないし」



 そっかぁ……そりゃそうだよなぁ。



「むしろ、無茶苦茶楽しみ! 誰かと遠出で旅行なんて初めてだし! また日付も教えるから絶対に予定空けといてね!」


「う、うん……」



 え? 本当に? まじで行くの? 旅館……二人だけで?


 あの時に冗談混じりで言ってたのに、まさか本当に機会が訪れてしまうとは……



「あ、それと十兵衛君。私達が二人で旅行に行くのは寧々ちゃんとやよいちゃんには内緒だよ?」



 しーと人差しを口元に指した。


 いや、こんなの言えるわけないだろぉ……親にも言えないよ……



「だから、十兵衛君には絶対にテストで赤点回避をして貰わないといけないのだよ。そこは心配してないけど」



 俺の神童時代の話を知っているからこその発言・信頼なのだろう。



「十兵衛くん」


「は、はい……」


「夏休みに二人だけの旅行……楽しみだね」



 華は今まで見たことのないような悪戯な笑みをしながら楽しそうに言った。

 

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陰キャぼっちの俺は学校中の全男子を夢中にさせている美少女に告白されたが『嘘告白』だったので丁重にお断りさせていただきました。〜その上、彼女の裏の顔を知ってしまった結果付き纏われるようになってしまった〜 社畜豚 @itukip

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