そのままでいいんだよ

西しまこ

第1話

 もうすぐ、高校に入ってから二回目の定期試験だ。


「つまんないなあ」とあたしは声に出してしまう。

 図書室から、部活をしている弘樹くんを見て、弘樹くんの部活が終わるのを待ってからいっしょに帰るのをとても楽しみにしているのに、明日から部活なくなっちゃうんだ。

「ああ、つまんない」

 弘樹くんは「待っているの、大変でしょ?」とか言うけど、違うの! 本読みながら弘樹くんを見るのが楽しみなんだ。でもしばらく、部活、ない。あたしは溜め息をついた。


 部活がないから、ホームルーム終わったらすぐにいっしょに帰ろうと思ったら、弘樹くん、「勉強教えて!」っていう女の子たちに捕まっちゃった。何でも、中学校がいっしょだったらしく、中学のときからテスト前はいっしょに勉強していたらしい。

「じゃ、あたし、教えてあげる!」

「彩香ちゃんの教え方、分からないもん。ノートも弘樹の方が見やすいし」

 弘樹⁉ あたしあたし、あたしが彼女なのに!


「彩香、すぐに終わるから、図書室で待ってて?」

 泣きそうな気持ちでいたら、弘樹くんがそう耳元で囁いてくれたので、あたしはおとなしく図書室で待つことにした。いいもん。本読みながら、待つんだもん。


 図書室で宇宙の本を読んで気持ちを落ち着かせていたら、「テスト前に余裕だよね、木崎さん」「授業中もずっとよそ事しているし」「勉強出来るって自慢してる?」っていう声が聞こえてきた。いまの、絶対に聞こえるように言った! あの女の子たち。

 うわー、こわいよー。女子、怖い。自分も女子だけど。


 気持ちを落ち着かせるために、本に集中する。

 そして、さっきの、気持ちを突き刺す台詞や教室での一件を、こころの中にしまい込む。

 ママが教えてくれたやり方で。

「覚えていなくていいことは、デリート出来なくても鍵をかけておけばいい」

 ――ん。よし。


「彩香、お待たせ」鍵をかけたところで、弘樹くんが来た。

「弘樹くん!」

 あたしは帰り支度をして、弘樹くんと並んで帰る。

「ねえねえ、弘樹くん、この間のお弁当、おいしかった! ありがとう」

「どういたしまして」

 弘樹くんがにこっとして、あたしは嬉しさでいっぱいになる。


 ところが、そこへ「彼氏にお弁当作らせるなんて、信じられない!」って声が刺さってきた。

 わー、痛い。今日は痛いことがいっぱい。見ると、さっき、聞こえるように悪口を言って来た女の子たちだ。あたしを睨んでる。よく見ると隣のクラスの女の子たちだ。

「だって、あたし、お弁当作ってもらいたかったんだもん!」と言い返す。そしたら、「恥ずかしくないの? 彼氏にお弁当作ってもらうなんて。弘樹くんだって勉強しなくちゃいけないのに」と言われてしまった。


 あーあ、どうしようかなあ、あたしお料理苦手だし。てゆうか、ママも苦手だし。と思っていたら、弘樹くんが「恥ずかしくないよ。どうして恥ずかしいの? それに勉強は大丈夫だから」と言って、「彩香、帰ろう」とあたしの手をとった。

「弘樹くん」

「彩香。全然、気にすることないよ。彩香は彩香のままでいればいいんだよ。そのままでいいんだ。……僕、賢くてかわいい彩香が大好きだよ」

 弘樹くん、耳が赤い。

「うん」

 どうしよう、弘樹くん。嬉しくて泣きそうだよ。



   了



「異世界でドラゴンをかう、ペガサスもかう、えーと次は何だっけ?」

https://kakuyomu.jp/works/16817330654897114257

に出てくる、彩香と弘樹 異世界転移前高校1年のときのお話です。

①「好きな人の横顔」https://kakuyomu.jp/works/16817330655829074392

②「はじめてのこと」https://kakuyomu.jp/works/16817330655880322579

①②のあとのお話です。



一話完結です。

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