第8歳 -子役編-(3)

2013年2月21日(木)

 今回でドラマのさつえいは三個目です。前のドラマはアクションドラマでしたが、今のドラマは家族ドラマです。かみの毛が茶色な私はかみの毛を黒くしないといけませんでした。今日の顔合わせで、お父さん役の方は私のかみの色を見て、びっくりしてました。お母さん役の方はダメなお母さんを演じるためにお酒をいっぱい飲んできたらしいです。死にそうな顔をしていました。大変そうでした。弟役の子はちゅっぱという子で一個下の子でした。彼は台本をあまり覚えてきておらず、後ろにいるしつじに助けてもらってました。役者としての自覚が足りないと思います。ダメな子です。もちろん、私はぜんぶ覚えていきました。


 

2013年3月7日(木)

 ようやく、一話分をとり終えました。一話目は、この一家のお母さん役にスポットライトが当たる話でした。お母さんは家を出て行く前に、私のことをだっこしました。私のお母さんはもう居ないので、だっこされるのはすごく不思議な気持ちでした。

 それと、びっくりしたことがありました。ちゅっぱさんが弟役の演技がうまかったことです。とにかく自然体でした。ちょっと自由ほん放で、けど人にやさしく、周りをよく見る役が、すごく板についていました。私はあんなに自然にふるまえているのか不安です。次はちゅっぱさんに勇気を出して声をかけてみようとおもいます。何か努力している所があれば、それを取り入れていこうと思います。



2013年3月18日(月)

 二話目をとり終えました。今回はお父さん役の主役回です。ひどい親、だけど、あい情は残っていて……という感じです。とてもむずかしい役でしたが演じきっていました。聞いた話では、台本から自分で過去を想像してノート一冊分書いたらしいです。描かれていない過去を自分で描くことでこれだけ深い演技になったのだと分かりました。これは取り入れるべきでしょう。

 ちゅっぱ君にも話を聞きました。ちゅっぱ君は兄で、下に妹がいるらしいです。なのに弟の役がうまいのはどうして?と聞いたら分からないと言われました。練習もあまりしていないらしいです。うそはついてなさそうでした。これが才能というものなんでしょうか?すごく腹が立ちます。けど、私には一位になるという夢があります。絶対負ける訳にはいきません。次は私の主役回です。私の演技で見てる人を全員とりこにしてやります!


 

2013年4月2日(火)

 台本はばっちり覚えていきました。家ではかなり練習したし、おとー様に演技指導をしてもらいました。おとー様を頼るのは初めてなので、おとー様はすごくびっくりしてましたが、やさしく教えてくれました。ちょっと嬉しそうにしてたのは印象的でした。無理はするなよと声をかけてもらいましたが、ちゅっぱ君に実力の差を見せつけてやるために頑張りました。本番では一回も間違わずに長文のセリフが言えたし、感情の込め方がよかったとADに褒めてもらえました。ちゅっぱ君も舌を巻いて私の演技を見ていました。そして、ちょっと興奮気味に「すごいね」と言ってました。そうでしょう、そうでしょう。ふふん、次はちゅっぱ君の番です。どうなるでしょうか。

 お母さん役の方と話している時に、家族感をもうちょっと出したら良いとアドバイスをもらいました。なので、「お母さん」「お父さん」と呼ぶことにしました。たしかに家族なんだと実感します。役の呼び名で呼ぶのは良いかもしれません。



2013年4月13日(土)

 ちゅっぱ君の演技はとても難しいものでした。まず人が多い休日でのさつえいでした。それだけで、素人はおどおどしてしまうと思っていましたが、そんなことはありませんでした。逆に人が増えるとパフォーマンスが上がっていくような雰囲気です。

 ドラマには”かんきゅう”が必要です。ずっと感動する話では見ている人が疲れてしまいます。なので、ちょっとしたコメディーシーンやアクションシーンをさし込みます。そのアクションシーンを挟む回がちゅっぱ君の主役回である、今回だったのです。今回はビルの屋上で自殺しようとするお父さんを止める役でした。命づななしの高所での演技はむずかしいはずですが何ともなくこなしていました。経験があるようなそんな感じです。そんなことありえないですね.....。けど、ありえないことを考えてしまうぐらいには堂々としている演技でした。対して私は足がすくんで、6回もとり直しをしてしまいました。お母さんはなぐさめてくれましたが......。こんなところちゅっぱ君に見られたのは一生の不覚です。次はうまくやらないと。


 

2013年4月26日(金)

 今日は5話目をとり終えました。お父さんは不器用なだけで、自分でもどうしたらいいかなとなやんでいるという設定です。お父さんはそれを、くせを使ってみせていました。なやんだり、家族の前で本来の自分を出せていなかったりするときにあごの無精ひげをさわるように意識しているらしいです。すごく努力を感じられる方でそんな方と一緒にドラマを演じるのはとても光栄であるし、私の成長にもなります。今から取り入れる訳にはいかないので次のドラマで使っていこうと思います。

 さつえいの合間にお父さんがこのアドバイスをくれていた時に、ちゅっぱ君はきょう味がないような感じでした。才能があるのにもったいないとも思いますし、これ以上うまくならないでほっとしてもいます。間違いなく今の同世代の中で一番うまいのです。おごってしまうのもしかたないでしょう。今のうちにぬかしてやります。


 

2013年5月2日(木)

 今日はちゅーの回でした。今回は借金取りを追い返す話でした。強面の役者に対して自由に振るまう末っ子ぞ属性であるちゅー演じる弟がほんろうする話です。これもむずかしい演技です。ドラマはぼつ入感が大事です。ですから、役者はい和感をのこす演技をしてはいけません。ですが、今回の強面の役者はそういう裏社会出身らしいのです。そのような相手に恐れず演技するのはとてもむずかしいのです。むずかしいはずなのです。ですが、まったく恐れずにいつも通りの演技をしてました。それどころか、相手が怖がっていたと言えるでしょう。ちゅーの演技がすごすぎて気圧されたということでしょうか?なにがあったのか聞く前にどこかへ行ってしまいました。とどろきごうという名前でしたので、覚えておきましょう。

 ちゅーというのはちゅっぱのあだなです。ちゅーは「なかいい人はちゅー君っていってるからそう呼んで」といいましたが、ちゅーはてきなんです。だから、君をつけるわけにはいけなかったのです。別に特別な呼び名が欲しかったわけではないです。

 次は私の回です。ゴールデンウィークで学校が休みなので、練習がいっぱいできます。今回のちゅーの演技に勝てるようによりがんばらないといけません。エチュードをやりこみましょう。


 

2013年5月8日(水)

 目が覚めると病院でした。どうやら、演技中に倒れたらしいです。医者によると、どうやら夏風ぜらしいです。夜おそくまで起きたりしたか聞かれました。思い当たる事はあります。無理をしすぎたのでしょう。いつもは優しいおとー様にも「体調の管理も役者として、人として大切なことだぞ」と怒られてしまいました。そして、お父さんはさつえい陣へ謝りに行きました。絶対次はないようにしなければいけません。私のためにおとー様が頭を下げるのは辛いでのです。これで、最終回までにさつえいが間に合わないことをないようにしなければいけません。今の私にできることはすぐに治すことです。いっぱいねます。おやすみなさい。


 

2013年5月9日(木)

 みんながお見まいに来てくれました。倒れても日程は大じょう夫なようです。一旦安心しました。「雛猫ぴよにゃっちがいないばめんから先にとっているので、心配せずに休みなさいな」と濃井Dは言ってくれましたが、おくれているのは事実です。内山ADから新しい流れの台本をもらいました。これは、倒れてから一日で一生けん命スタッフ陣が作りなおしたものでした。本当にみんなに迷わくかけていやになります。早くび熱と鼻声を直さないといけませんね。

 帰り際にお母さんがこそっと教えてくれました。倒れた時に近くにいたのはちゅーで、その場で大声出して人を集めて、大人に指示出していたらしいです。なかなか、たよりになりますね。それと、一番しんぱいしていたのはちゅーらしいです。あまりしなかったミスを連発してたので濃井Dがこの見まいを計画したらしいです。申し訳なさより嬉しさで胸がいっぱいになるのはなぜでしょうか?



2013年5月12日(日)

 ようやく復帰して、7話目をとり終えました。みんなのおかげで撮り終えました。この気持ち、感謝を忘れてはならないと思いました。今回の一件は役者をしていく中で気を付けていかなければなりません。

 ドラマは今日、4話目を放送して大反きょうです。視ちょう率も22%をこえています。ですが、みんなはちゅーの演技をほめています。ちゅーのことばっか見ています。悔しいです。努力しても倒れちゃうし、何をしたらいいんでしょうか。どうやったら、一位になれるでしょうか。



2013年6月3日(月)

 今日は9話目をとりました。ドラマは10話構成なので、あと1話でクランクアップです。8話目はお母さんの回。そして、そのまま9話目はお父さんとお母さん両方にスポットライトが当たる回でした。お父さんは、今まで演技してきた集大成がつまった演技をしていて圧巻でした。お母さんの演技からはもう一度やり直そうと、今までのダメなところをすべて受け入れた上で前に進もうとしているのがひしひしと伝わってきました。見てるみんなからは応えんしたくなるような、そんな感じです。

 トリは、私とちゅーの姉弟の主役回です。そして、私がこのドラマで演じる最後の演技です。ちゅー君を超えなければいけません。

 


2013年6月8日(土)

 本当にダメでした。これは私が忘れないように書きのこそうと思います。

 まず、濃井Dがおとー様を呼びました。その時の私はおとー様に演技を見てもらえると思ってワクワクしてました。一位に近づいた演技を見せることで、おとー様はあのころのようにわらってくれると思ってました。そこで、私は自分が目立つ一心で演技を大事にしなかったのです。ちゅーと私の回です。相手はてきであるちゅーです。相手のセリフに食い気味に入ったり、立ち位置より前に出たりしました。正直に言いましょう。ちゅーをけ落として一位になろうとしたのです。今考えるととても恥ずかしい行動です。

 それを見たおとー様はひどくがっかりした様子でした。濃井Dが休けいの宣言をすると、おとー様は私を呼びつけました。そして、私に言いました。その時見えた感情は怒るでもなく喜ぶでもなくまた違った感情でした。不器用なお父さんがみせる時の表情に似ていました。「いいかい雛猫ぴよにゃ。それぞれが役を演じて初めて物語ができるんだ。それを見失ったら役者じゃない。そして、一位になるためには他人のじゃまをするんじゃなくて、とびっきりの一位を目指しなさい。今すぐにじゃなくていい。いつかなればいいんだから。いつかのために、取り入れなさい。せっさたくましあえるライバルとして接しなさい。最後に、雛猫は一位の役者じゃなくても家族なんだから、俺の大事な娘だから縛られなくていいんだよ。俺に縛られなくていいんだよ」と言っていました。良いドラマのじゃまをしてる時点で私は役者ですらなかったのです。

 それから急いで監督にあやまりに行きました。もう一回、10話の分を最初からとりなおさせてくださいとたのみました。監督は快だくして、最初からのとりなおしが決まりました。

 ちゅーにあやまると、笑顔で許してくれました。これが役者なんだなと思います。自分はライバルとしてちゅーとがんばろうとおもいます。他のドラマで一緒になることもあるでしょう。この先何回も負けることになるでしょう。ですが、最後には勝って”一位の役者”になろうと思います。

 今日は役者人生の中で忘れてはいけない日でしょう。このことを教訓にこの先もがんばりたいです。



2013年6月18日(火)

 今日10話目、最終回がおわりました。6月23日に最終回が放送されます。それまでにとり終えることができてよかったです。今回のドラマは学ぶことがとても多かったです。みんなに支えられてここまでやりきりました。特にライバルのちゅーにはいろいろまなばせてもらいました。そして、今後も学んでいきます。お父さんには"一位の役者"を目指さなくてもいいと言われましたが、私はちゅーに負けたくないです。特に置いていかれたくないです。だからこそ、自分の意思で”一位の役者”を目指すのです。

 これからクランクアップを祝うパーティーに行こうと思います。






 

 

2013年6月24日(月)

 ちゅーが今日、はいゆうの引退を発表した。


 ふざけんな。

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