春、青空の屋上で。
燈夜(燈耶)
春、青空の屋上で。
屋上は最高だ。
特に春。そして晴れの日のお日様のうららかさ。
こんな俺にも、世界は平等だと教えてくれる。
教師どもの言う平等なんて絵空事。
だがお日様は、こうしてベンチを占領し体を横たえている俺にも、成績上位のアイツにも、そして校舎裏のヤンキーにだって平等に降り注ぐ。
これを平等と言わず何と言おう。
って、突然の睡魔。いや、当然の睡魔か。
俺は口に手を当ててあくびを噛み殺す。
誰も見ていないのに、な。
購買のパンで少しだけ膨れた腹。
程よく、腹八分目。
そして春のぽかぽか陽気と来たものだ。
まだ昼の授業までには時間がある。
俺は目蓋をゆっくりと閉じ──。
「おうわ!?」
突如ほっぺに感じる冷たさよ。
水分を含んだ何かが押し付けられる。
「いい反応してるじゃないか、なあ早乙女」
突如、俺に低い女の声が降ってきた。
「ふん、場所を開けろ。私も座る」
蹴飛ばされる前に跳び起きた俺、当然ベンチには彼女が座る程度の空間は開く。
「なんだ、お前か」
眠気も吹き飛んだ俺は抗議の声。
「ご挨拶だな、お前にかまうのも面倒だが、席を譲ってもらうんだ、タダと言うわけにはいかなだろう?」
と、俺は彼女の手に握られた冷たさの正体を知る。
パッケージに汗をかいたリンゴジュースの紙パック。
「ほら、くれてやるから飲みな早乙女」
「あ、ああ」
と、文句の一つでも鈍い頭で思考を巡らせていた俺に彼女のジャブ。
俺は手を伸ばし、いや、彼女が手を伸ばして紙パックを押し付けてくる。
「ありがとよ」
俺の指が、右手が紙パックに触れる。
冷たい。どうやら自販機から買ってきたばかりのものらしい。
で、彼女はおれの隣に座るのだ。
当然の権利、いや、俺からジュース1パックで買い取ったベンチ。
「なあ、お前どうして毎日屋上に来るんだ?」
俺は間抜けなことを聞いていた。
「そりゃ早乙女、お前のアホ面を拝めるのはこの場所しかない」
「──え?」
俺は目が点になる。
が、彼女は続けるのだ。
「と、言ったらどうする?」
と。
一瞬の後、彼女は噴き出して、おなかを両手で支えながら豪快に笑ってた。
うおお、うおおおお。
俺。
遊ばれている、遊ばれているぞ……。
うん、そんな気がしてたよ。
俺はボッチ、彼女も友達は多くない。
でも、ボッチ同士。
──の、はずである。
屋上の事件は今日だけじゃない。
週に二三度は起こる、変な遭遇イベント。
俺は屋上が好きだし、それを邪魔する彼女の行動もはっきり言って嫌いじゃない。
彼女の真意は知らないけれど、彼女が来る日はなんだか胸の奥が熱くなる。
気のせいじゃない。
偶然でもない。
──だけど。
俺は彼女を流し見る。
そんな彼女はストローを咥えて笑ってる。
俺と目が合うと、彼女はニンマリと表情を作ってた。
どうしたものか。
気の利いた言葉が出ない。
──困る。アホか俺。
そう。
この距離感が、俺にはいまだによくわからない。
春、青空の屋上で。 燈夜(燈耶) @Toya_4649
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