第十五回 出会いの春の、さらに向こう側へ……


 まるで、浦島うらしま太郎たろうのような出来事だったように思えたの。黒く艶のある玉手箱を目の前にして……ここはウチのお部屋。ウチはもう開けた。光を遮ていたカーテン。


 僅かな勇気だけど、春の向こう側へ進むの。


 喩えるなら、ミズキちゃんは乙姫なのかも。そう思いながら蓋を開けた。……玉手箱の蓋。ボワッと、白い煙は立ち上がらなかったけど、中にはアニメキャラのイラストが描かれてある表紙の日記帳……と、その前に、一通のお手紙が添えられていたの。


 ――遠い未来の私へ。


 誰宛? 誰から誰へ? ウチは目を通した。通してしまったの。……人のお手紙どころか、その日記帳までも。もう後には退けなかったの。ウチは君のことを気にしたから。そして君が望む通り、君との約束を果たすためにウチは向かったの。お車でパパと一緒。


「それにしても、千春ちはるから学園の見学をしたいと言い出すなんて珍しいな」


「うん、どうしても気になって。それに、パパにも手伝って欲しいの……」


 それは、埋めること。ナイロンや風呂敷で梱包した玉手箱を。埋める場所は、君が指定した場所。千里にある学園の中庭。ヒッソリとした場所だった。パパは、多くの質問はしなかった。ただ笑顔で喜んでくれた。「千春にも、気になる女の子ができたんだな」


 と、ただそれだけを……


 その気になる女の子は、ミズキちゃんのこと。……いや、漢字で書くと『瑞希みずき』だね。


 ――北川きたがわ瑞希。それが君の名前。


 時の流れは遡っていたの。あの時に出会った君は、君が幼き日に見た君だった。君はウチよりもずっと大人だった。やっぱりお友達というよりかは、お姉さん的存在だったの。


 そこに通りかかった女性。この学園の教員のようだ。それが証拠に名札がある。しかも御親切にフルネームだった。「あの、学園の見学で来た者ですが……」と、パパは声を掛けると、ニッコリと、その女性は「ご案内しますね」と、言った。そして、


「君だね、この学園を受験したいんだね」と、ウチの顔を見る。少し屈みながら。


 ハッキリと見えるミズキちゃんの面影。「はい」とウチは元気よく返事をした。



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千春の春は、出会いの春。 大創 淳 @jun-0824

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