4.ブッコロー、横浜へ行く
鎌倉を堪能して、横浜に移動した頃には日が暮れていた。
「大観覧車、ずっと乗りたかったんです」
「そうなの? 夢がかなって良かったねぇ」
私たちは横浜の遊園地内にある大観覧車に乗り込んだ。
「実は、私もはじめてだよ」
「はじめてで良かったです」
「なんで?」
「大観覧車は、好きな人と最初に乗るんだ!って言ってたので…」
「そうだった?」
「はい。中学生の頃に言っていました。君にとって初めてで良かった」
「本当に、色々と覚えているんだね」
「ええ、もちろん。君のことはなにもかも覚えています」
ブッコローは目をくるくると動かして、嬉しそうに私を見た。
ゴンドラが上昇をはじめると、ランドマークタワーを中心としたビル群の夜景がキラキラと目の前に現れた。
大観覧車のてっぺんから見た景色は圧巻で、息を飲むほどの美しさだった。
ベイブリッジ、赤レンガ倉庫、マリンタワーまで煌きつつも雄大に360度見渡せた。
「世界はこんなに美しいものであふれているんだね。知ったつもりで、まだまだ知らないことばかりだった」
「はい、本当に。世界は広くて美しいです」
私たちは時間が止まったように、ガラスに張り付いて夜景を見続けた。
「あああっ! 素敵な夜景すぎて忘れるところでした。渡すものがあります」
ブッコローは懐に抱えてる本から、ドラ◯もんのようにするすると箱を取り出した。
「え…」
それ、どう入っているの、とツッコミを入れたいが雰囲気的に我慢した。
「これ、貰ってください。デートのときにはプレゼントを。観覧車の中だと吊り橋効果でより良いとあって、いや、そんなことはどうでもいいか。これ、僕からの気持ちです」
「え……すごく嬉しい。ありがとう」
「あ、待って! 箱を開けるのは家に帰ってからで!」
ブッコローが照れくさそうにあたふたとしているので手を止めた。
「これで1日は終わりです。ああ、なんとかなった、良かった。本当はね、もう体が、ずっと限界だったんです……」
「え……なに」
ブッコローの身体が言葉とともに、どんどんすーっと透けていくのがわかった。
「君が元気になってくれて本当によかった…行きたかった場所にもいけた……」
「なに突然、あの、やだ、ちょっと待って、ブッコロー!」
「プレゼントも渡せたし、君はもう大丈夫だよね?」
「ちがう、私はずっとブッコローと一緒にいたいから!」
姿が、もうほぼ見えなくなっていて、ブッコローを抱きしめようとすると、するりと通り抜けた。
「ああ、あの、やだ、まって…行かないで、ブッコロー!」
「ありがとう、では、ま……」
そう言いかけると、ブッコローがすっと跡形もなく消えてしまっていた。
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