5.そして、君に逢いにゆく
大観覧車から降りたあと、ひどく落ち込んだ気分でひとり帰宅した。
部屋に帰り、今日1日のことを思い返していた。
「楽しかったなあ」
久しぶりに心から笑えたような気がする。
ブッコローと見たすべてが、美しく輝いた世界だった。
ただ、ブッコローはもういない。
明日、仕事に行くと思うと急に憂鬱になる。
今までそうだったはずなのに、消えたブッコローを思うとさらに辛さが増していく。
「そういえば、ブッコローからのプレゼント…」
プレゼントは有隣堂の包装紙に綺麗に包まれていた。
ブッコローは自分の体が朽ちることを知っていたのだろう。
準備して、プレゼントも用意して、私に逢いにきてくれたと思うと、感謝と後悔が混ざり合って胸が押しつぶされそうになる。
箱をゆっくりと丁寧に開けるとガラス棒が入っていた。
添えてある手紙にはこう書かれている。
僕のお気に入りのガラスペンです
君は美しいものが好きだから
喜んでもらえると嬉しいです
これからも、ずっと大好きだよ
ありがとう
ブッコロー
ブッコローが書いたのだろうか。
綺麗な筆跡、流れるような美しい文字が並んでいる。
ブッコローは自我が芽生えてから大変だったのだろうか。
彼のことを忘れていた私は、突然のことに何もしてあげられなかった。
だけど彼は、私をいつも想っていてくれて、優しくしてくれた。
ブッコローが優しくしてくれたように、私も人に優しく接したい。
明日から、彼が教えてくれたことを活かし、ひとつひとつ整理して、自分の仕事方法を見直して、もう一度がんばってみよう。
仕事帰りに、このガラスペンに合うインクを買って、もう一度楽しく生きてみよう。
「また会えるよね、ブッコロー」
ブッコローのことを想い、私は年甲斐もなく大声をあげて泣いた。
◆
そうして、気がついたら1年が経っていた。
あれから、ガラスペンの魅力にハマってしまっていた。
繊細に見えるが重厚感もあり手によく馴染む。
滑らかな螺旋細工が美しい、ガラスペンの世界。
有隣堂でもガラスペンを扱っており、桜木町の有隣堂に今日も通っている。
「どのガラスペンも素敵すぎる……迷うなあ……あっ、あれ?…これ…」
ガラスペンのショーケースの横に、蛍光色のオレンジのぬいぐるみが入ったカゴが置いてあった。
「これ、ブッコローのぬいぐるみ……!」
プライスカードには『岡崎推薦! 復刻しました!』と書かれている。
思い出した。
小さな頃、有隣堂でブッコローのぬいぐるみを買ってもらったんだ。
買うしかない。ここから、一番イケメンのブッコローを選ぶのだ。
何体もいるブッコローからじっくりと厳選して「この子に決めた!」と持ち上げた。
「ひさしぶりだね。ブッコロー」
『ただいま』
いま、袋越しに、微かにくちばしを動いたような……。
ブッコローの声がかすかに聞こえたような気がした。
「え…まさかね」
不可思議な出来事は経験済みだ。
いつか、また会えるとずっと思っていた。
ブッコローが、また逢いにきてくれると信じていた。
もっと色々と話をしたい。デートにもまた行こう。
嬉しくて自然と頬が緩んでくる。
私は、いま出来得る限りのとびきりの笑顔で答えた。
「おかえり、ブッコロー!」
いま、君に逢いにゆきます。 アカネ ミヤム @m_sirotan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
あなたへ/近藤美澄
★0 二次創作:R.B.ブッコ… 完結済 8話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます