3.ブッコロー、鎌倉へ行く

「鶴岡八幡宮、久しぶりだ…!」

鶴岡八幡宮は〝鳩宮〟とも呼ばれ親しまれてきた鎌倉を代表する神社だ。

八幡宮の八の字が向かい合った鳩の姿にて描かれており、神奈川といえば鳩である。


赤い大きな鳥居には毎回感動させられる。

由比ヶ浜から八幡宮へと真っ直ぐ続く参道を通り、一ノ鳥居、二ノ鳥居、三ノ鳥居を通る。大石段を上ると楼門が見え、拝殿とつながった本宮がある。そこで参拝をした。


「ブッコローは何をお願いしたの?」

「鶴岡八幡宮は勝負運・仕事運が強いそうで、勝負運を願いました」

「勝負運?」

なにと戦うのかと疑問を抱きつつ、慌てて自分の仕事運も切に願う。


「あとは売店で欲しいものがあるんです」

「おみくじ?」

「いえいえ、これです」

ブッコローは〝神鳩笛〟を買ってきて、羽の上に乗せてみせた。

「鳩のお守りや鳩みくじは有名ですが、鳩笛のこの凛とした白いフォルムが好きです」

「あれ、この鳩笛…」

「はい。昔、君が学校の遠足で八幡宮に行って、この鳩笛をお土産で買ってきて嬉しそうだった。遠足がとても楽しかったことを話してくれて、僕も君と行きたいとずっと思っていた」

ブッコローは鳩笛を〝ホーホー〟と鳴らした。

「ほらこの鳩笛、ミミズクと鳴き声が似ているでしょう。親近感があります」


ブッコローはこんな風に〝ずっと〟私とやりたいことを貯め込んできたのだろうか。


帰りの参道で「ここで飲みたいものが!」と露店にも寄った。

「これ、これです! 鎌倉ビール!」

ブッコローはビールを飲み干すと、おっさんのように「かあああッ!」と唸った。

「すっごい美味しい!」

「豊かな甘みと旨み! 程よい苦味のハーモニー! その場で楽しむフレッシュ感! 香ばしく爽やかで、これは唯一無二のビールです!」

店のサクラかと思うくらいのブッコローのリアクションに、周囲の人たちも集まり始め、気がつくと行列ができていた。

「このビールもずっと飲みたかったの?」

「はい、お父さんが飲んでいた鎌倉ビールが美味しそうで、君が大人になったら一緒に飲みたいと思っていました」

「だからリアクションがおっさんぽいのか」

「お父さんは、この鎌倉ハムを一口かじり、ビールをあおっていた。それが美味しそうで」

「たしかに。ハムとビールって合うね」

食のマリアージュとでもいうのだろうか。

どちらも単体として美味しいが、合わせるとより美味になるのは発見だった。


なぜ、ブッコローが不信感を持たれず、この場に馴染んでいるのか。

その前になぜビールを飲めるのか、とか。

不可思議だらけだが、考えるよりも楽しすぎて思考が追いつかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る