第2話
聖典が降臨したことによって、有隣堂伊勢佐木町本店ビルは神の力で護られる「聖域」となった。
聖典降臨のニュースはすぐに世界中を駆け巡り、その直後から各宗教関係者、科学者、テロリストなどの有象無象が、このビルに集まってきた。それはまさに「宗教戦争」と呼んでも過言ではないほど白熱した状況だった。
報道から三日と置かずに、有隣堂ビルはカルト教団の信者たちに襲撃された。それ以降、よくもまあというぐらい、バラエティに富んだありとあらゆる機関の刺客が、ここ有隣堂ビルに送りこまれてきた。世界規模で活躍する窃盗団にも狙われた。
目的は聖典の奪取、もしくは破壊。
こうなることは誰の目にも明らかだった。
薄い光を放ち続ける、天から降臨した本。「最後の審判」が訪れた時、「神の国」に入ることを許され、永遠の命を得られる者の名が記されているいう、通称「終末の聖典」。
これが狙われないわけがない。
この聖典自体にとてつもない価値があるし、宗教関係者にとっては生きる意味そのもの。
こんな品物、一秒でも早く有隣堂ビル内から移管し、しかるべき場所で保管するべきだ。誰もがそう考えた。
しかし、聖典をビル外に移動させることはできなかった。
不思議な力が働き、ビル外に持ち出すことができないのだ。
そのかわりなのだろうか、ビルの中では一切の武器・弾薬の持ち込み・使用が不可能になった。
火を放とうとしても無駄無駄。有隣堂本店ビル内に「悪意ある」何かを持ち込もうとすると、塵になって消えてしまう。さすがは神さま。
以前、このビルにロケットランチャーをぶち込んできた奴らがいたが、ビルの壁面に当たる瞬間、塵になって消えてしまった。
ある意味、この有隣堂ビル内は、世界中でもっとも安全な場所になったのだ。
ただし、この「悪意ある」ものというのはとても曖昧で、そのジャッジは神さまの意志に任されている。
色んなものが持ち込まれて、わかったことがふたつある。
芸術性が高ければ高いほど神さまに認められる(もちろん芸術性が高いといっても剣や銃などの武器はNG)。「文具」はOK。
ここ一年の間に、色んな文具が作られた。
日本刀と同じ製法で作られた巨大な定規。ケブラーとタングステン繊維が織り込まれたノート。超衝撃吸収素材でできた消しゴム。世界一の硬度を持つ鋼材作られた鉛筆などなど。
文具として有隣堂に持ち込み、武器や防具として使うためだ。
だが、文具として持ち込んだ品物も、それで誰かを攻撃・拘束しようとした瞬間、塵になって消えた。
そんな中、相手に突き刺すことができる文具がひとつだけあることがわかった。
それが、ガラスペンだ。
それも安物じゃダメ。安藤さんの作った芸術品のごときガラスペンだけが、この場所で唯一、武器として使える文具であった。
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