第四話 白銀の小型機

宇宙空間に無数の小型機が飛び交っている。

敵機の小型機はどれも黒っぽい円盤型のタイプだ。

このタイプは小回りが利きくし、初心者には扱いやすい。

しかし、エンジンの最大出力は戦闘機型のタイプの小型機よりかは劣る。

メディアスの魔石発掘調査船に常備されている小型機はどれも後者のタイプになる。

扱いやすさは円盤型のものより難しくはなる。

しかし、その分訓練を積めば、戦闘での本領を発揮しやすいのは戦闘機型である。

強力なエンジンに加えて、追跡型ミサイルとレーザー光線銃の搭載——高火力な武器が用意されているのだ。


パリナは目標となる地点で赤い小型機を凄まじい速度で飛ばしていた。

無数に飛び交う小型機から敵機となる円盤型の小型機を見つけるとすぐに後ろについて、レーザー光線銃の標準に合わせる。

標準に敵がピッタリと合うように真後ろにつくと、光線銃の引き金に指をかける。

パリナの眼が鋭い光を帯びる。

バリバリバリ——っと強烈なレーザー音が鳴り響く。

前に飛んでいた敵の小型機にレーザー光線が炸裂する。

敵機からは炎と黒い煙が舞い上がり、数十秒もしないうちに機体が爆発した。

パリナはその後も次々と敵機を殲滅していった。

そのスピードは尋常ではなく、先に交戦していた第二部隊にもその様子は伝わっていた。


「赤い小型機——、パリナさんだ!」

「やっぱすげえ」

「もう5機は堕としてるぜ」

「私たちも負けてられないよ!」


第二部隊の者たちの称賛の声が無線機から次々と流れている。

パリナはふんっと鼻を鳴らしながらも、多少、機嫌を良くしていた。

——しかし、肝心なレントのことがやはり頭から離れない。


(あのクソのケツにめがけてレーザー光線を打ち込んでやりたいわ……クソ)


奥歯をガリっと噛みしめながら、次の敵機がいないかと、パリナはギラリと眼を光らせていた。

今やるのはストレス発散だ。

溜まった鬱憤を敵機にぶちまけるのがパリナのやり方だった。

その後、ライアンとジェノシーが来た頃にはおおよそ戦局はもう決まっていた。

敵機は第二部隊全体で5機、パリナだけで7機堕としていた。

半数以上を失った敵機は戦意を失ったのか、後退し始めていった。

敵機のほとんどは宇宙に浮かぶ岩石群が散らばるエリアへと徐々に逃げるように移動していく。


「もう逃げ腰だな……俺たちの仕事も今日はないな、ジェノシー」


ライアンはふーっとため息をついてそう言った。


「うむ……まあそうだな」


ジェノシーはそう言いながらも、後退する敵機の姿を注意深く見ていた。

まだ10基近い敵機はまるであらかじめルートを決めていたかのように、岩石群のエリアの方へとどんどん入っていく。

通常、負け戦になって逃亡となると、もっと混乱状態となって、その移動も乱れたものになるはずだ。

それに比べると、今回の敵の逃亡はやけにスマートなのだ。

ジェノシーはそこに違和感を感じていた。


しかし、怒りの熱が収まらないパリナには関係のない話だった。


「なに勝手に逃げてんのよ……逃がすわけないでしょ?」


敵機が逃げ込んでいく岩石群の中にパリナは赤い小型機を猛スピードで飛ばして勢いよく入っていった。

通常なら衝突を避けるように減速するところだが、さすがは第一部隊のパリナだ。

臆することなくジェットエンジンを吹かし、宇宙に浮かぶ岩石と岩石の隙間を潜り抜けていく。

岩石群の中を隠れるように逃げていく敵機にどんどんと近づいていく。


「殲滅よ殲滅……全員潰してやるわ」


レーザー光線銃の引き金に指をかけてパリナは眼をギラつかせた。


「何かがおかしい……パリナ、それ以上はやめろ」


無線機からジェノシーの警告が聞こえたが、パリナは聞く気はなかった。


「はあ?何言ってんの?こいつらただの逃げ虫よ?人にケンカ売っといて都合よく逃げれると思ってんのが私は腹立つのよ——」


パリナがそう言った時、目の前に岩石の集まりが急になくなっていた。

知らぬ間に岩石群の中を抜けてしまったのだ。

代わりに何もない宇宙空間の中には、白い大きな宇宙船があった。

敵の母船だ。

かなりデカい。

母船上部にある巨大なレーザー砲がパリナの赤い小型機に向けて標準を合わせる。


「——ちっ……こんなとこに——隠れて」


ドオオオン、と巨大なレーザー光線がパリナの小型機のすぐ横を通った。

危うく機体に当たるところだった。

パリナは久しぶりに冷や汗を流した。


「あっぶねええ!……何よこいつ」


すぐに旋回して態勢を整えようと機体を操縦する。

その間、敵の母船からは一機白い小型機が飛び出していた。

それは白銀の——戦闘機型タイプの小型機だった。

青白い光のジェットエンジンを勢いよく吹かしながら、敵機となるその美しい白銀の小型機は母船の真上に飛び出すと、すぐに旋回するパリナの後を追うように移動した。


「……なになに?ないこいつ?」


あっという間に敵のレーダーの中に入ってしまったパリナの小型機の中では警戒音が鳴り響く。

それからしばらくの間、パリナは何とか敵の追跡から逃れようと機体を操縦したが、白銀の小型機はピタリとくっつくように離れない。

ついに真後ろに取られた——。


(やば……ミスっ——た)


バババババババっ、と敵機から赤いレーザー光線がいくつも放たれた。

その数発がパリナの赤い小型機に着弾した。

激しい振動と巨大な爆発音がパリナの操縦席に鳴り響く。


「……っ!……くっそお!」


ビー、ビーと警戒ブザーが操縦席で鳴り響き、赤いランプが点灯する。

パリナはジェットエンジンの出力を最大にして、とにかく逃走を試みた。


(この場から離れないと、まずい——あいつ、かなりやる……)


焦りを感じたパリナはとにかくスピードを最大にして敵の母船から離れた。

しかし、敵の白銀の小型機はまだ後を追いかけるように追跡していた。

あちらも戦闘機型タイプの小型機なため、パリナの最大出力のスピードにもついてこれるのだ。


「パリナ、現在の状況を説明しろ、大丈夫か?」

「結構ヤバイ……!何発かもらった!」

「敵機の数は?」

「なんか知んないけど急にいなくなって、今一機だけよ!」

「一機だけ?お前がたった一機に?」

「そうよ!悪い?油断してたの?てか戦闘機型タイプの小型機よ!色は白っぽいわ!……こっちまで来れる?」

「レーダーで場所は確認してる……俺とライアンですぐに向かう」

「はあい……よろしく……私死ぬかも」

「何とか持ちこたえろ……俺たちが助ける」


ジェノシーの返事を聞きながら、パリナは奥歯を噛みしめながら、ジェットエンジンのレバーを最大に引き続けた。

機体は大きく揺れている。

着弾した箇所からの発火は収まってはいるが、相変わらず操縦席にかかる振動は凄まじい。

機体が安定して飛べていない証拠だ。

加えて距離は離れてはいるが、ピタリと後ろに白銀の小型機は追跡している。

パリナの体は緊張で張りつめていた——。



「レント、もう乗ってんだろ?無線で聞いたか?」


操縦席にライアンの声が響き渡った。


「ああ……やられてるらしいな……白色の戦闘機型タイプの小型機だろ?」


レントはすでにジェットエンジンの出力を最大にしながら、猛スピードで元々の目標地点を通過していた。

先ほどまでの眠そうな眼ではなく、鋭い半月目を光らせていた。

思わぬ強敵がいたらしい。

レントはそれを聞き逃さなかった。


「岩石群の中を通り抜けた先に敵の母船を発見したらしい——、現在のパリナの位置はわかるか?」

「もう今いるのはその岩石群の真上だろ?」

「ああ……もうこっちの方向に向かってきてるって話だ」

「お前のケツが見えて来たぜ、ライアン」


レントの操縦席からは、ライアンの黄色い機体が小さく見えていた。

そのまま直進し、数十秒もしないうちにレントは機体をライアンの横並びに付けてしまった。


「速いな……今朝は十分寝れたかー?」


ライアンが冗談交じりに笑った。


「ああ……だいぶな……死にかけたぜ」

「ふっふっふ……そのバツが下ったのか、パリナのやつ、今ヤバイぜ」

「みたいだな……残り89リード……見えるか?ライアン」

「あ……れか?」

「気を付けろ——、たぶん一瞬だぜ」


レントがそう言った時だった。

高速でパリナの赤い小型機が二人の小型機の間を通り抜けた。


「う……わああ」


後部座席に座っていたマイが思わず声を上げた。

パリナの小型機がすぐ横を通り抜けたせいで、機体が大きく揺れ出したからだ。

レントは黙って前だけを見ていた。

光線銃の引き金に指をかけたまま——、パリナの後を追跡してくる白銀の小型機を狙って。

一瞬の出来事だった。

反対方向から真正面に迫りくる白銀の小型機に合わせてレントはレーザー光線を放った。

敵機はそれに反応してすぐに斜め上に飛び上がった。

あと少し反応が遅れれば、それは確実に敵機に着弾していた。


「……やるな……今のを避けれるのね」


レントは敵機の後を追跡するために、機体をぐいっと真上に飛び上がるように動かした。

先ほどまで進んでいた反対方向まで機体の向きを変えると、すぐに反転している機体を横回転させて、元の位置に戻した。

ジェットエンジンの出力を最大にして、白銀の小型機の後を追う。


「今のを避けたのはやるなー!……レント、やれそうか?」

「余裕だろ……今のはまぐれ……次は外さねえ」


レントはそう言うとニヤリと笑った。

久しぶりに骨のあるやつに会えたのだ。

どんな飛び方をするかこれから楽しみだ。


「ねーレント、今のが敵?」

「ああ」

「なんか物凄い速かった……白くて……綺麗」

「母船から一機だけ出てきたのがあいつらしい」

「一機だけ?え、敵って一機だけなの?」

「ああ……なめてやがんのよ……よほどの自信のあるやつなんだろうな!」


レントは自分でも気づかないうちに大きな声を上げていた。

久々に全力で戦えそうな相手を見つけたのだ。

胸の高鳴りが収まらなかった。

白銀の小型機は依然としてレントの追跡から逃れようと飛んでいた。

宇宙に輝くその白銀の機体にはいったいどんな奴が乗っているのか。

今のところ、それは誰にもわからなかった。

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レント @Rino_shousetu

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