ありがた迷惑

尾八原ジュージ

ありがた迷惑

 雨の日は幽霊が見える。

 私が通う中学校の音楽室の窓には真っ黒い影みたいなものがくっついていて、部屋の中を覗き込んでくる。

 だから雨の日、音楽の授業は憂鬱だ。幽霊なんかなるべく見たくないから、窓の外は見ないようにしていた。


 でもある日、学校の近くの神社の杉の木に雷が落ちた。

 ちょうど音楽の授業中だった。ものすごい音がして、みんなが窓の方を見た。私も思わずそちらを向いてしまった。

 そしたら、ベランダにいる黒い影と目が合った。真っ黒だから目がどこかなんてわからないはずなのに、とにかくお互い目が合ったってことはわかった。


 それからあいつは、私の部屋の窓の外に――


 なんてことになったらいかにもホラー小説っぽいけれど、幸いそんなことにはならなかった。そいつは相変わらず雨の日、音楽室の窓に貼りついている。

 ただそれ以来、そいつは自分の見た目をだんだん私に寄せてきている。シルエットはもうほぼ完全に出来上がって、最近はうっすら目鼻立ちがわかるようになった。

 たぶん相手はよかれと思ってやっている。私に見られていることを知っているから、あえて姿を似せようとしているのだ。そういうこともなんとなく伝わってくる。

 でもあと一年もしないうちに私は卒業してしまう。その後はあいつ、一体どうするんだろう。

 私がいなくなった学校に、私の姿をした赤の他人の幽霊だけが残るなんて、困ったものだ。

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ありがた迷惑 尾八原ジュージ @zi-yon

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