語り合う兄弟

「うーん、つめ……クロヅメ?……ブツブツ。」


 ども、ルークで~す。

 壁に向って技名考案中ぅ。

 カッコいい名前にしたいもんだが……

 時間もそんなにないだろうし、シンプルな物で行こう。


 コン コン コン コン


 ん?足音?


「ルーク……。」


 兄上がトレイを手に持って、暗闇から姿を現した。


「兄上か?……ロックは壊したから、そのまま開けられるぞ。」


「『壊した』って……ところで、手錠はしとらぬのか?」


「手錠?最初からされてないんだが……。」


「そうか。」

 

 鎖なら繋がれてたが。


「それでその手に持ってるのは?それと、いつもの腰のガラディンはどうした?折れたか?」


「折れるか!代々にわたり受け継がれて来た宝剣が折れてたまるか!鍛冶師に磨いてもらってるだけだ。」


「そうかい。」


 そうそう折れるもんじゃないか。 

 金キラキンの見た目の割りに頑丈そうなんだよなぁ、あの剣。


「馬鹿なこと言っとらんでコレを食したらどうだ?ステファンからだ。」


「ステファンから?おおー、クリームシチューじゃねぇか!」


 具材もたっぷりで美味そうだ。

 これでジャガイモがあったら文句なしだが、無いものねだってもしょうがない。


 ……容器に触って、頭の中で『闇よ』と唱える。

 のみ込む対象は毒性物だが…………肌に通った感覚が無いということ何も入っていないってことか。


 意外だな。

 父上なら食い物にも盛ってそうなものだが。

 

「いただきます。」


 ま、何も無いなら美味しくいただこうジャマイか。


「貴様はたまにその言葉を言うよな。なにか、意味があるのか?」


「え?」


 しまった。

 人が居るってのにセナフ教の祈りをしなかった。


「あー、えっと……。」


「良い。その言葉がどこから来たものか気になるが、教えたくないならば良い。だが、意味くらい良いであろう?」


「それくらいならな。要はこの食事をここまで届けてくれた人達に感謝の想いを込めて、『いただきますよ』って意味みたいなもん。」


「ほぼ同じだ…………。」


「同じ?」


「なんでもない。」


 ??????


 まぁ、いいや。


 しかし、マジで美味いな。

 ステファンのヤツまた腕を上げたんじゃないか?


 時代的に材料品質はそこまでじゃないはずなのに、向こうの世界とは2段下くらいになってる。

 品質の良い材料と良い設備を渡されたら、向こうでもそれなりの高級レストランに働けると思うぞ。


 残念ながら俺は貧乏人だったから、そこまで行ったら逆に俺が味を分からなくなる気がするがな。


 誰か、言ったけ?

 SNSだったか? 

 ああいう場の料理の味にも教養がいるって。


「…………大丈夫そう……だな。」


「何が?」


「いや、夢でな。」


「夢?」


「なんでもない。気にせんで良い。」


「はぁ……。」

 

 夢ってなんだよ。


「ところで、父上に何をしたのだ?生気が抜き取られたような姿をしていたぞ。」


「生気を……?」


 …………あ。


 もしかしたら魔力を吸収したんじゃなくて、生命そのものを抜き吸ったのか?


 いや、くたばれーとか言ったけどさ。

 

 あの時は無我夢中だったしなぁ……。


 ホント、この力は……。

 

 扱いを間違えると死体どころか、何も残らなさそうだ。



 …………。

 

 それから俺らはお互いがどうやってこの状況に至ったのかを話し合って、


 それなりの時間を費やした。


 俺の状況の場合、セッテに話したものとそんなに変わらないけど。


 そして案の定、兄上は父上と母上の命令で俺を殺しに来たらしい。


 母上まででしゃばるのは想定外だな。


 俺が闇の魔力に覚醒した事をただの後継者争いによる殺し合いの話にすり替えたいってことかな?


 そうすれば王家はアストラ家の事を批判するだけだろうし、闇魔法みたいに様々な歴史の悪王やら悪の親玉やらの疑惑でこの家をガサ入れされるよりマシだろうし。


 あと2年前の『闇魔法使いを見つけ次第、直ちにその者を調べ、拘束し、王都に報告せよ。』という王命もまだ有効だしな。 

   

 バッカバカしいなぁ。


 まぁいいや。


 とりあえず――


「ふう……美味かった。ごちそうさま。それで、その毒薬はどこにあるんだ?」


「うん?ここだが……。」


「くれ。」


「は?」


「だから、それを俺に渡せ。飲んでやる。」 

 

「な、なにを……これを飲んだら数秒で死ぬのだぞッ!!」


 だろうな。

 まぁ、それでも俺の闇なら……。

 

「死なねぇよ。良いから渡せ。」


「断る!何故わざわざコレを飲もうとする!?まさか、貴様も家のために死のうというのか!?」


「なんでこの家のためなんかで死ななきゃならないんだ。俺がソレを飲むことで兄上は言われた通り毒薬を飲ませたことにするためだけだ。」


 正直な話、ここまで兄上を監視する者がいないってのは可笑しな話だから、ソイツの目にも俺が毒を飲んだって見られれば、父上に報告がいくだろ。

 

 まぁ……死ななかったって結果を知れば、余計血相を変えて殺しにかかってくるだろうな。


 それこそこの家の暗部を使って暗殺してくるんじゃないか?


「めんどくせぇな……【黒波くろなみ】」


「これは!?この黒い水のようなものが貴様の闇魔法か!」

 

 そう。

 

 今回の魔法は普段の煙のような形状以外にも出来るみたいだ。


 なにかを引きずりのみ込む性質はどんな形になっても変わらないがな。


 そしてその水たまりような……泥のような【黒波】に手を突っ込む。


 不思議と自分の身体の一部を闇に入れてもなんともないんだよな。



「ほれ。」


「っく!?」

  


 水をぶっかけるように勢い良く腕を振って、闇を兄上に浴びせる。 

 

 そして、のみ込む対象はアッシュの服の全ポケットだ。


 兄上が浴びた闇の液状は俺から離れた一瞬、すぐに蒸発したみたいに消えて無くなった。


 闇を俺から伸ばす分には消えたりしないが、こうして投げたり、放ったりするとワンテンポぐらいしたらで消える。


 主観的な表現の仕方しか出来ないが闇が消える前にきっちりと仕事したようだ。

  

 穴だらけの兄の服から落ちた黒い小さな筒を俺は拾う。


 軽く筒を振ってみると中身が何かの液体だと分かる。


 これが例の毒薬で間違い無いだろう。


 兄上が浴びった【黒波】で困惑してる間、さっさとコレを飲もう。


『闇よ』と心の中で唱えるのを忘れずに。


「っ!ルーク、待てッ!!」


 ごくん


「あ……。」

 

「……ふぅ。」


 ……うん。平気だ。

 口内から喉まで闇を張って、毒を消滅させることが出来た。

 

「ルーク貴様アアアア!!!」


「うお!?」


「人の気も知らないで、何故そのようなことをする!?幸い、何もなかったものの死んだらどうする!!」

 

「死んでいないから別に良いだろ!!」


「そういう問題ではない!!」


 急に怒ってなんだってんだよ?


「とにかく……お前も言われたことをやったから、コレであの両親もお前を責めずに済むだろうし……今からこの家を出て行くわ。」


「…………え?」


 ゲームではこの牢の端っこに仕掛けがあってそれで主人公達がこの屋敷から脱出が出来たんだ。

 元々先に潜入してたツンデレヒロインの家の暗部(たぶんセッテのこと)から持たされた情報だったものだが、俺もプレイヤーだったしその情報を頼りにしておこう。


「しかし、まぁ……出て行っても特にやりたいことがないんだよなぁ。」


 問題はこれなんだよな。

 

 やりたいことがない。

 

 ただ生きるだけ。

 

 異世界転生系のネット小説やアニメや漫画などで主人公が自由に生きる!とか言っても、現実だと何をどう自由に生きるかなんて分からないんだよな。


 レールの上で生きていただけの人間が、いきなりそのレールから外されてどこへでも行けって言われたら、そんなもんどこに行けっというんだよ?って聞きたくなる。


 最強を目指す?なんのために?

 ハーレムを作る?人間関係なんて苦痛でしかないのに?

 

 少なくとも俺がそんなこと言われたら『家に帰って、何もしたくない。』って思うよ。


「だったら……だったら、ここに居ればよかろうッ!父上たちがお前の力の有用性がきっと……ッ!!」


「それはあり得ないだろ。」


 あの両親の中で俺は多分もう、自分らの人生の癌みたいなもんだし……何がなんでも殺しに来るだろう。


「何故だ?……何故、そんな簡単に出て行くなんてことを言える!?貴様には……貴様にはここでの日々がそんなに価値の無いものだったのか!!!」


「そんなんじゃねぇよ。」

 

「では、何故だ!?」


「俺らが子供だからだよ。親にとって子供は道具でしかない。何かが上手くいかなかった時の都合の良い言い訳でしかない。何か上手くいった時の自分を良く見せるための都合の良い飾りでしかないんだ。子供とは……そういうものなんだよ。」


「トリーシャ嬢やオルビット侯を見て、そんな風に思っていたのか!?」


「あいつらは特別だよ。でも俺らは違う。」


「…………っ……。」


 正直言って、両親のことを恨んだり、憎んだりしていない。

 少なくとも前世の口だけ達者で愛を言う両親より幾分かマシに思えてるぐらいだ。

 クソなのは変わらないがはっきりと嫌われてる方が気持ちとして軽い方だ。


 親なんてこんなもんかってそう思えるしな。

 

 だから――


「俺らはただ……運が悪かっただけだ。」


 そういう親に当たってしまった。

 そういう家に産まれてしまった。


 それだけなんだ。


 結局。


「…………。」


「…………。」


 数秒。


 数分。

 

 静かになった牢に耐え切れなくなった俺は口を開く。


「じゃあな、兄上。いつかまた会えたら……他人として扱ってくれ。互いのためにもな。」


 悪いな、ルーク本物……俺にはやっぱり、上手い言い方や説得が出来ねぇよ。


 俺も俺で大人になりきれないからさ。


 お前の望む結末には…………ならないんだ。


 ロックを壊した牢の扉を開ける。


 そして開けた瞬間――


「【火の玉ファイヤーボール】!!!」


「っ!?」


 火の玉に当てられ、爆発の勢いで開いたばかりの扉から吹っ飛ばされた。


「アガアア――――ッ!!!!!!」


 熱い!?

 あの野郎!!!一体何を!?


「なにを……すんだよッ!?」

 

「運が悪かっただけ?子供だから?ふざけるな!!!そんなもので納得出来るものかッ!!」


「じゃあどうしろってんだッ!!!」


「知らぬ!!知らぬがこのまま貴様を行かせたら、俺は一人になる!!!そんなの嫌だ!!!!そんなことになるくらいならば……貴様を殺してでも止めてやる!!!!」


「こんのーーッ!!!良いぜ!やってやるよ!この我が儘な分からず屋がッ!!!喧嘩上等だコノヤロォ!!!」



 俺がこの世界に生まれ落ちて、色々なことがあった。 


 語り合うことも。


 言い合うことも。


 馬鹿をやることも。


 楽しかったことも。 

 

 俺の日常は……この大きな家だけへの暮らしは……


 常にアッシュ・ヴィ・アストラという兄と共にあった。


 でも……。


 そんな前世含めての長い人生でも俺は……




 初めて……



 兄弟喧嘩というものをする。




「ルークゥウウウ―――――!!!!!!!」


「来いよ!アッシュバカアニキィィイ――――――――!!!!!!!!!」



=========

お待たせしました。

執筆する時間が欲しい…………。

更新する時の公開時間帯もこれからは朝の方にします。

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悪役貴族の弟として異世界転生!~次男坊が征く空気読まない最強覇道~ 津田ユウト @TsudaAyuuto

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