水色のポニー 🐎
上月くるを
水色のポニー 🐎
年季の入った厩舎の明かりとりの窓から、清々しい曙色の朝日が射しこむ春の暁。
大型犬の赤ん坊ほどの大きさの、かわいらしい木曽馬ポニーの仔が生まれました。
からだのわりに難産だったので、牧場主さんも獣医師さんもなかなか大変でした。
で、無事に生まれて来た仔馬にほっとしたのですが、同時に「ええっ?!」声を。
なんと、その仔馬は、白っぽい
なんだべなあ、この赤ん坊の変わった毛の色は……突然変異っちゅうやつかやあ。
この仕事、四十年やってるが、一度も見たことねえぞ、神さんのいたずらずらか。
🌲
水色の仔馬は、足が短くて胴が太い、ずんぐりむっくりした木曽馬に育ちました。
ほかの毛の色をした仲間たちと牧場に放たれても、遠くからひと目でわかります。
いつしか神の申し子と言われるようになっていた水色の仔馬はやんちゃな男の子。
清潔な風が吹き渡る木曽開田高原のなだらかな丘に美しいたてがみを翻らせます。
♪ おんまは みんな
ぱっぱか はしる
ぱっぱか はしる
ぱっぱか はしる
おんまは みんな
ぱっぱか はしる
どうして はしる
どうしてなのか
だれも しらない
だけど
おんまは みんな
ぱっぱか はしる
ぱっぱか はしる
ぱっぱか はしる
おんまは みんな
ぱっぱか はしる
おもしろいね (アメリカ民謡)
🌩️
御嶽山のふもとに位置する開田高原は、夏でも平均気温二十度の涼しいところで、木曽馬は古くから農家の家族の一員として大切にされ、同じ家に起居していました。
けれども、馬を戦地で働かせようとする人たちが、小型馬の大型化を図ったため、太平洋戦争が勃発すると「宝玉号」を最後に純系木曽馬は絶滅の危機に陥りました。
そして、戦後、性格が穏やかで働き者の木曽馬の復活を願った地元の人たちが懸命に探したところ、同じ県内の更科市八幡の神社に奉納されていた「神明号」を発見。
開田高原のとなりの木曽福島町で、これまたひそかに飼育されていた純血雌馬の「鹿山号」と夫婦にさせたところ、純系木曽馬「第三春山号」が誕生したのです。
🌞
そんな木曽馬ですので、開田高原の人たちの愛着は、ひととおりではありません。
むかしのように同じ家で暮らしてはいませんが、わが子のように愛しんでいます。
日ごとに水色が美しくなった仔馬は「平和の天馬」と言われるようになりました。
先年、ウクライナの悲劇が始まってから、たてがみはいっそう輝きを増しました。
自分の馬であるのに牧場主さんは水色の馬の高潔な人(馬)格を尊敬しています。
とりあげた獣医師さんも「この馬には人知を超えたものがある」と言っています。
果たして水色の馬は紛争が絶えない地球に派遣された平和の使いなのでしょうか。
世界中から争いがひとつもなくなったときに、天空へかえってゆくのでしょうか。
水色のポニー 🐎 上月くるを @kurutan
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