第5話 25日目

 Bと話したその日の深夜、12時を少しまわった頃、Aは例のコンビニにひとりで向かっていた。

 なんとなく寝付けず、小腹でも満たすためにお菓子でも買おうかと、そんな気持ちを抱いていた。

 夜の闇は人の心を弱らせる。Aは、Cがしばらく休むというその事実に一抹の寂しさを感じていた。

 なぜBは、Cのことを嬉しそうに話していたのだろう。悲しげに、あるいは今のAと同様に寂しさを感じていても、おかしくないはないはずなのに。そんなことも、Aは気になっていた。

 ふと、Bが話した幽霊の話を思い出し、スマホで調べながらコンビニへ向かった。けれどAは、Bが話していた掲示板を見つけることはできなかった。

 Aは考える。Bは本当に、掲示板で話を見たのだろうかと。Aがパッと調べても出てこないということは、Bも相当探さないとこの話は出てこなかったということになる。けれど、わざわざBが一生懸命に探す必要はあるのかと言われればそれは疑問だ。

 そうすると、Bはもともと幽霊の話を知っていたのかもしれない。それをあたかも、その時、ネットで知ったかの様に話したのだ。でも、そうする動機はなんだろう。

 ここでAはふともう一つの疑問にぶつかった。あの日、Aが足を掴まれた時、Bは「それは、幽霊じゃない」と言っていた。確かにその結論は正しかった。しかし、なぜ即座にそう答えられたのか、お年寄りの幽霊だっていてもおかしくないし、しかも暗闇でうずくまっていたのだ。少なくとも怪談で盛り上がっていたAとBなら、おじいさんを幽霊と誤解してしまっても不自然だとは言い切れないのだ。

 にもかかわらず、Bは即座に判断ができていた。ということは、もしかすると、Bは幽霊を見たことがあるのかもしれない。あのコンビニとマンションの隙間で。

 そこまで考えて、Aは自嘲気味に笑った。いくらなんでも、論理が飛躍している。それにBが幽霊を他人に見せる理由なんてない。


 そこまで考えたところで、Aはコンビニについた。Aはアイスとお菓子を買うと、コンビニを出て、そのまま、コンビニとマンションの隙間に向かった。必要のない行為だと言えば、その通りだったが、Aどうしても確認せずには、いられなくなったのだ。

 Aはあの日と同じ様に、何もいるはずがないと心の中で呟きながら、隙間をのぞいてみる。


 そこには、案の定、ただ暗闇があるだけだった。幽霊もまして、おじいさんも存在しない。

 当たり前の光景だったが、Aは何故か安堵の気持ちを抱いた。


 コンビニからの帰り道、Aはまた考えを思い巡らせていた。Bには、誰かに幽霊を見せる動機はあるのだろうか。そこで、Bが言っていた幽霊の特徴を思い出した。


 気に入ったやつのところに近づいてくる。


 もし、すでにBが幽霊につけられていたとしたら。

 その対象から外れるためにAやCをあの隙間に連れていこうとしたのだとしたら…。

 そう思至って、ふと立ち止まったその刹那だった。

 Aは視線を感じた。

 自分にとっての左側、建物と建物の隙間、暗がりから何かが覗いている。

 Aは見てはいけないと感じるが、意識とは裏腹に顔がそちらを向いてしまう。


 暗闇には乱れ髪の背の高い、細い女が佇んでいた。肌は荒れている様に見えるが、体が暗闇と溶けており、詳細には見えない。口元は乱れた神で隠されているが、なんとなく薄く笑っている様に感じる。もっとも特徴的なのは目だった。生気を感じさせない、黄色く濁った白身の中に、ドス黒い黒目があった。

その目が、ただじっとAを睨んでいた。


 次は自分の番かもしれない。Aはそう感じた。

                    了

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