整備室
目のくらむほど高い天井についている換気扇は、大きなプロペラを不気味にスローモーションのように動いており、そこから発せられる轟音は部屋中を反響し、私の体を貫通していた。
整備室には多くの生徒がおり、皆、銀色で凸凹とした機械から、数10本の黒や赤といったケーブルが伸びているヘルメットをかぶっている。彼ら彼女らはメンテナンスをしているのだ。
私とコトネは空いている席へ行くと皆と同じようにヘルメットをかぶった。
つけた瞬間、目を開けているにもかかわらず、前が見えなくて、広がる景色は暗黒だけで、室内に広がっていた換気扇の音も聴こえず、甲高い耳鳴りのような音が脳内に広がっていた。
そして後頭部から自分自身の声と似た声質の女性が
「ヘッドギア装着完了。整備プログラムを起動しています」
私に発してきた。
目の前の暗黒が晴れ、広がる景色はまるでパソコンの画面のようであった。
整備プログラムが整備調節用機器ナノマシンB-19を起動したのだ。
B-19は体内の異常箇所を検索していく。
拡張ワーキングメモリを初期化、生体反射器の情報更新、反射弓を調節、強化受容器を修復した。
一瞬の針の刺されたような痛みとともに、全身がぽかぽかと熱気につつまれた。
異常箇所を自動的に修復したのだ。
B-19は自動修復プログラムを終了した。
目の前が正常な部屋の風景に戻った。となりに座っているコトネはまだプログラムを終了していないようだ。
私は暇つぶし感覚でもう一度ナノマシンを起動した。
なんとなくこのうんざりと、鬱らとした気分を終わりにしたかったのだ。
目の前にはいくつかのオプションが映し出されている。
私は情調プログラムを実行した。
情緒制御機器が偏桃体へ微弱な電流を流した。ドーパミン神経系が活性化した。
情調プログラムは使い方を変えれば、記憶を消失させることもできる。楽しかった思い出もボタン一つで忘れることができる。
恐怖はなかった。
ただ楽になりたかった。
私は情調プログラムを実行した。
情緒制御機器は偏桃体ではなく大脳皮質へ直接電流を流す。
目の前が真っ暗になった。
人並みの世界へ @UREBAS
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。人並みの世界への最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます