モノトーン

窓から差し込むお日様は白いシーツと共に、日常の鬱屈も殺菌するようで楓寮のすぐそばにある中庭ではしゃいでいる同世代の子たちの声が聴こえてくるが、目の前にあるの無機質に広がる平らな天井であった。

 私はベットから体を起こし、4人で共同部屋であるこの部屋を見渡した。

部屋にはベットと個人の机と、私物が入っている棚がどれも同じように配置されてる。どうやら広いこの部屋には私以外誰もいないようだ。

 私はもう一度ベットに仰向けに寝ころんだ。

 友人とは良好な関係であるのだが、部屋に私しかいないという不思議な安堵感と共に、私は先ほど見ていた理想の夢についてふけっていた。

私は若干の幸福のようなものに包まれているようであった。たった今枕にしている毛布のようにふんわりとし、太陽光を吸収してぽかぽかであった。

 私は無意識に鼻歌を歌っていた。

 褪せた日常の鬱屈さを今は忘れることができた気がした。

 「楽しそうね」

 部屋の通路を見ると同部屋の友人、コトネが立っていた。 

 穏やかな声で急に話しかけられたことと、鼻歌を聴かれたのが恥ずかしかったので、私は慌てて体を起こした。

 「いたの?いつから」

 「割と最初から」

 コトネは向かい側のベットに座って、にやけた顔を向けていた。

 足をパタパタさせながら

 「その鼻歌は自分で作ったの?」

 と興味ありげに聞いてきた。

 「違うわよ。教えてもらったの」

 「へー、誰に」

 「この前に実習があったじゃん。その時にあった人に…」

 コトネの顔が目を鋭くさせて少し暗くなった。

 「実習って。実習の時、一般人と関わるのは規則違反だぞ」

 コトネの声色は少し驚きも含まれていたようにも感じた。

 「まぁ。あなたが規則を破ろうがどうでもいいけど、いい歌だと思ったわ」

  コトネの発言に少し焦りを覚えたが、この歌の良さに共感してくれたうれしさのあまり、

 「そうでしょ!外の世界は楽しいことがたくさんあるんだよ!」

  私はコトネに近づき

 「外には、甘い食べ物がたくさんあるんだ。プリンっていってプルプルとしたものや白いふわふわしたクリームが乗ったパフェっていうものがあるらしいの」

  コトネのを引っ張り

 「私たちぐらいの年の子は学校というものに行って、私たちみたいに授業を受けるみたい。それで友達を作ったり、部活っていう自分の好きなことに打ち込んだりするんだって」

 「ちょっと待っ…」

  コトネに顔を近づけて

 「それでね。休みの日には友達とゲームセンターってところで遊んだりす…」

  突然おでこに激痛が走りその反動で自分のベットに倒された。

  コトネは落ち着けといわんばかりに私を見下ろした。よく見るとコトネのおでこは赤くなっていた。

  私は我を忘れていたと反省し体をゆっくりと起こした。

 コトネはとても乾いていて不気味な冷静さで

 「お前が実習中楽しかったことはわかった。でも私はそれの何がいいかよくわからない」

と言った。

  私は何故かと驚愕した。

  そして冷静に語りかけるように

 「外にはね。家族というものがあるんだ。それは私たちみたいな関係じゃなくて、好きな人と一緒にいて、子供というものを作って一緒に暮らすらしいんだ。つらい時もしんどい時も好きな人と一緒に歩むんだ。これって美しいとおもわない?言葉でうまく言えないのだけどいいなっておもわない?」

  コトネは首をかしげ困り顔であった。

  そして純粋な疑問を投げかけるように

 「それの何がいいの?。私たちには役目があるでしょ。役目を果たすことがすごい幸福なものだと思わないの?」

 「確かにそれはすごく感じるけど…」

 役目を、仕事をすることはすごく楽しくて時間を忘れてしまうほどである。しかし…

 「でも…」

 「今日聞いたことは君の言う友達や家族というものではないけど、友人として聞かなかったことにするからさ。メンテナンスに行かないか?整備室で待ってるかさ」

 そう言い捨てコトネは部屋から出ていった。

 廊下から聞こえてくるブーツの硬い音は離れていく。気が付けば白いシーツは少し灰色で冷たくて居心地のいいものではなかった。

 私は自問自答した。 

 コトネの言う通りであると。

 私たちの幸せは役目を果たすことである。これは変わらない。

 しかし、もしも、というものがあれば、空想の出来事が現実だったらいいなと願った。

 私も整備室に向かった。

 もう外から聞こえていた同世代の子の声も聞こえなくて、不気味に聞こえる普遍的な風の音だけだった。

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