人並みの世界へ

@UREBAS

美しい夢

人間は死を嘆くのではなく、誕生を嘆くべきだろう。

 モンテスキュー

 

 不幸というものではなかった。

 かといって幸せではなかった。ごく平凡。私の外見や住む家を見ても、または他人がする私のうわさ話や私がする話っていうものを聞いたとしても、この平凡以外にはない。

 貧困であったわけではなかった。 

 お父さんはよく名前の聞く会社の会社員というもので、俗にサラリーマンというものだった。だからそこまでお金に困ったこともなくて、大学にも行かせてもらった。

 頭が悪いというわけではなかった。

学校である定期考査での成績は中の中。成績がよいわけではなかった。けれども良い学校には入ったほうがいいって漠然と思っていたし、周りもそうだったから高校も大学も少し背伸びしたところに入った。だから大学も皆知っているような所には入ることができた。

 特段苦労したわけではないけど、やはり受験というものはしんどかったし、学校の勉強というものも少し苦労したようにも思う。

 内気な性格であったわけではなかった。

 学生の時は、その時相応の友人も複数いたし、その友人たちと仲が悪いわけでもなく、むしろよき友人と感じていた。恋愛だってしたことがある。

私のことを思ってくれる彼は犬のように、愛くるしく、そして私を守ってくれるような人だった。

 家族と不仲であったわけではなかった。

 私には両親のほかに姉がいた。よくある核家族というものだ。

 姉はやさしさにあふれている人だった。小学校の時、風邪を引いて寝込んだことがあった。両親は仕事や用事があって家にいないことがあり、その時姉は必死に看病してくれた。数個しか離れていない姉は私から見てとても大人であった。

 仕事に不満があるわけでもなかった。

 大学を卒業して、特にやりたいことがあったわけではなかったけど、自分のいる学部とお父さんの会社の職種が近かったから、お父さんの会社と取引のある会社に入った。

 仕事は覚えるまでは怒られたりしてやめたいと思ったこともあるけど、ある程度つづけたら仕事も順調にできるようにもなって、上司から褒められることも多くなった。

 ごく平凡。平凡。なんてことないよくある人生。 

 これからの人生は多分結婚して、子供が生まれて、育てて、仕事でも昇進したり、子供が独り立ちして、結婚して私から離れて行くのだろう。またその逆で何もなく終えて散りゆくのだろう。

 ごく平凡に流れすぎてゆくのだろう。

一定の速度で、 ありふれた日常は足跡も残さず歩いてゆく。

温かい光のように眩くて、太陽は地平線へと沈む。





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