考察 3 そして エピローグ


 特段に気にしていなかったけれど、私が殺したい相手が私自身だと気付いたときに、ちょっと思い出したのよね。ミランダちゃんの、最後のひとこと。


 ぶち殺しを成功させた人には、景品がある、って。


 いえ、覚えてはいたのよ? 夢が覚める直前で、薄ぼんやりとしか聞き取れなかったとはいえ、ちゃんと耳には残ってた。だけど、そんなざっくりとした景品欲しさに動くやつなんていないと、思考を放棄していただけなの。


 だけど、私の殺したい相手が私自身だと仮定すると、少し引っかかることがあった。ミランダちゃんの言い回しでは、誰ひとり例外なく、『ぶち殺し』を成功させさえすれば、景品を与える、と、取れる。でも、私が殺したいのは、私自身。この、ダメで、愚かで、ただの汚物でしかない、人間だ。私は私が人間であることに、殺したいくらいの嫌悪を覚えた。賢くて、可愛くて、強い。そう信じていた自分が、やっぱり愚かで、醜くて、弱い、ただの人間だと理解して、死にたくなったのだ。


 ともあれ、私は私を殺したい。そう気付いた。でも、ミランダちゃんは『ぶち殺し』成功者に、例外なく景品を用意している。であれば、私は、私を殺してその後、どうやってその景品を、手に入れるのだろう――?


 ――――――――


「ゲエエェェィム、セットオオォォ――!! おっ疲れ様でしたああぁぁ!!」


「……やっぱりね」


「んこれにてええぇぇ、第ぃ! 40回っ! ぶちっ殺しのおおぉぉ、ん祭典っ! 終・結!」


「それで、景品って?」


「あっちゃああぁぁ! 情緒もへったくれもないわっ! 即物的ねぃっ! 朱菜あかなちゃん!」


「特段に興味があるわけじゃないわ。ただ、他に疑問がないだけ」


「あっるじゃなああぁぁいい! たとえば、『あんた誰えぇ!?』とか、『なんで私がこんな目にいぃ!』とか」


「レベルの低いモノマネをしないで。私、そんなアホじゃないわ」


 いえ、まあ、アホなんだけど。


「はぁいはあぁいい! 賢い賢い朱菜ちゃん! よくぞこの『お祭り』を生き残ったわっ! んミランダちゃんがああぁぁ――賞・賛! しちゃうっ!」


「いいから、景品、よこしなさいよ」


「……はーい」


 しょんぼりさせちゃった。もう少し構ってあげたほうがよかったかしら。


「んではああぁぁ! 見事! 『ぶち殺し』を成功させた朱菜ちゃんにはっ! ささやかながらこちらを進呈っ!」


「……『人生やり直し券』?」


 というかなんだこの汚い字は。小学校低学年生の手作り感が半端ないわ。


「んっそおおぉぉうぅよおおぉう! その券は! 使用することで人生をやり直せる! マジ希少アイテムっ! このあと閻魔ちゃんに会うときに、係の人に提示すればあぁ、あら不思議っ! 朱菜ちゃんは別の人格、別の身体で、生まれ変わることができちゃうのんっ!」


「へー」


「へー。……って、ええぇぇっ!? 反応うすっ! そこもっと盛り上がるところようっ!」


「やったーありがとーちょううれしー」


「…………」


 またしょんぼりさせちゃったわ。がんばってテンション上げたのに。


「まあいいや。もうおまえ、行っちゃって」


「なんかごめんなさい」


 まだまだ、人間を理解するのは、難しいわ。……ミランダちゃんが人間かは解らないけれど。


「あー、いちおう。成功者インタビューあるんだった。……えー、南雲なぐも朱菜さん。次はどんな人生を過ごしたいですか?」


 ……インタビュー? いったいどこの誰に需要があるのかしら? ……まあいいか。


「今度は人間らしく――」


 私は、私が優れていたから、こうなったのよ。まあ、これを不幸だとは思わないけれど。でも、これが不幸に感じないくらい、いろいろと、間違ってきたのだと思う。

 だから、どうせ生まれ変わるんなら、今度はちゃんと、まっとうに――


「なにも知らない、馬鹿で生きたいわ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぶち殺し 晴羽照尊 @ulumnaff

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ