第五十六話 王子様

そうして私達は仄かに光を湛えている神殿の中で首輪をつけているだけの全裸の美少年と向き合っていた。その姿はとても倒錯的で私は頭が痛い。だが私と違い「ガンタ」と名乗る少年は首輪をつけた事で大分落ち着きを取り戻したようだ。ホントなんなのこの世界…頭がおかしくなりそうだ…私は内心正気を保つ事で必死だった。


「ごめんなさい…その…何も…覚えてなくて…」


どうやら彫像になっていた時の記憶、私を襲った事自体の記憶が曖昧なようだ。彫像が人間になるという意味不明な事態をたった今この目で確認した。納得はいかないが分からない事を問い詰めても仕方がない。


「なら像にされる前の事は覚えてる?」


そろそろ私もこの摩訶不思議なあたおかワールドに耐性がついてきたという自信がある。何らかの魔法か呪いならまだしも私の想像の斜め下をいく低劣なセクハラ染みた変態パワーによって引き起こされた珍事であっても驚かないという覚悟があった。


「像にされる前……ボクは服を着ていたハズなんですけど…どうしてハダカなんでしょうか…?」


覚悟した私は何故か質問に質問で返されていた。いやしらんし、誰かに剥かれたんじゃないだろうか…私じゃない…だがガンタは頬を染めて恥じらいの表情を浮かべ股間をおさえ涙目になっている。まるで私がセクハラしているようでとても遺憾だ。

そして改めて恥じらわれるとその華奢な身体と柔肌を意識してしまい目のやり場に困る。熱くなる自分の頬に気まずさを感じ目を逸らすとデュオと目が合った。何故かその目には非難めいた色を感じた。とても理不尽である。


「ま、まぁいいわ。それよりガンタもここから出るの?」


私は全力で話を逸らせた。

ここは真っ暗な人工的に作られた洞窟の底だ。もしここが彼の家だというなら私達だけで外に出るのだが、彼は記憶が曖昧なのかここが何処であるのかも分からないようだった。


「は、はい!ボクも外に出たいです!」


置いて行かれると思ったのか慌てて立ち上がろうとするガンタだが、永らく彫像になっていた影響から体が思うように動かなかったようだ。その脚をもつれさせ「きぅ!」と小さな悲鳴と共に私に倒れ掛かってきた。


「ご…ごめんなさい……」


涙目になる美少年が私にもたれかかる。私にのしかかる軽い体、細い腕に薄い胸その肌は彫像の時と同じとても滑らかで嫉妬すらおぼえる程だ。そんな彼が頬がくっつけんとばかりに迫ってくる。眼前に迫る目を彩るまつ毛は長くその瞳は涙で潤んでいる。暗いので髪の色や瞳の色までは分からないが髪質は彫像の時とは違い、蛇のようにまとまっていた髪はいつのまにかストレートになっていておかっぱのような髪型になっていた。あまり見つめ過ぎると目の毒だ。デュオも大概な美少年なのだがこの子も方向性は違うとんでもない美少年だ。しかもなんか良いミルクのような匂いまでする。

…何を私は匂いまで堪能しているのか…まるで変質者じゃないか…頭がバグりそうだ。


そう脳が混乱をしていると横からデュオが覗き込み、ガンタに肩を貸した。


「ほら立って!」


いつもより少しぶっきらぼうな態度をするデュオはガンタより少しお兄ちゃんに見える。ガンタを立ち上がらせてあげている姿はガンタを気遣うものであったのは間違いないのだが…何故か私に対して冷たい視線を向けたように思えた。え…私悪くなくね?

そうしてデュオはガンタに肩を貸しながら歩くが、階段を上るのに大分苦労していた。デュオは私に付き合っての生活で大分足腰が強くなっているのだが、ガンタはどうにも病み上がりのようで階段を上るのは随分と辛そうで息も上がっている。


「デュオ、私が抱えるわ」


そんな私の申し出に対してデュオはまた不満気な表情を浮かべたが階段を少し上っただけでこの体たらく、地上への道のりはまだまだ長いのだ。私はガンタをさっさと抱え階段を上る。お姫様だっこだ。何故お姫様だっこなのかというと彼を背中に背負ってしまっては何をしてくるか分からない、口には出さないが私はまだこのコを信用していないからだ。何らか悪意ある行動を起こさぬよう監視をする意味でこの態勢なのだが…思った以上に軽くて柔らかくて…全裸の彼の体温やら呼吸音が伝わってきてしまう。目には常に肌がちらつき、ミルクのような匂いが鼻腔をくすぐる。思っていた以上の自分の変態性に頭がバグりそうになっているとデュオは不満げな表情で呟いた。


「王子様だっこ………」


何言ってんのこのコ…

結局デュオは洞窟から出てくるまで終始むくれていた。

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バーバリアン聖女異世界を往く たにたけし @tanitakeC

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