第五十五話 彫像の美少年

私はサンディへのお土産としてこのかむった美少年の事案像を運ぶ事に決めた。財布役として街で文化的な生活を送れた事への礼もあるが、一番の理由としてはあの女がデュオをいやらしい目で見たり視姦する事が減るのではないかという思惑があった。放っておくとあの女は日に二度三度はいやらしい目でデュオを見つめている。だらしなく表情筋を緩めたアホ面はせっかくの美人が台無しであった。

そんな彼女の性欲を鎮める為の良いお土産が出来た。山を下り森の中を何日もこの彫像を彼女が持ち運べるのかは分からないが荷物の少なさを考えると多分異次元ポケットみたいなものがあるのかもしれない。

そうと決まったら彫像をどうやって安全に搬出するか…この大きさの石の像を持ち運ぶのは今の私の膂力ならば問題ない。だが像は精緻な作りでうっかりぶつけてしまうと欠けてしまうかもしれない。階段や通路やら入り口を通す事が出来るだろうか?ここまで来た道のりを考えていると突然デュオの悲鳴が洞窟内に響いた。


「エリカ!避けて!!」


私はそんな無駄な事を考えていて反応が遅れた。それまで私を誘うように包んでいた不可視の力は突如として豹変し、掴む力となった。そしてそのまま像に力いっぱい引っ張られてしまう。


「なっ!?」


そしてこの力の意図は私の身体の中から力を抜き出そうとするつもりなのが分かる。


「ハァ!?ふざけないでよね!!」


一瞬反応が遅れた私だがその張力に力をもって相対する。力の綱引きだが趨勢は即座に決した。例えるなら私はイニシアチブを取られ関節技を極められているような状態だったのだが、如何せんそれでは力不足だった。児戯のような関節技を圧倒的な暴力でもって叩き伏せる。そして相手の力の源である魂を無理矢理掴んだ。この不可視の腕で魂を掴むという事は相手に根源的な恐怖を与える事に他ならない。


「んきぅ!!!!」


彫像からは悪意の割に可愛らしい声が漏れたが構わず中の魂を引きずり出す。表面の皮を砕きバリバリと剥ぐ。彫像は表皮を砕かれる事に痛みがあるのか、それとも魂を引きずり出されるという未知の感覚に恐怖しているのか。


「ひあっ!あっ!あっ!あっ!!あぁぁぁーーーーーー…」


恐怖に囚われているソレは小さく断続的に可愛いうめき声…どうにも嬌声にしか聞こえない艶のある声をあげていた。私は気持ちを抑え冷静に現状を確認して息を飲む。陶器の表皮を剥いた下には温かみを持つ柔肌があった。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ………」


荒い呼吸音が辺りに響く。気が付くと私は彫像であったモノ…全裸の…年の頃は私の感覚だと十歳くらいの…未だ一部分は剥けていない明らかにアウトなあられもない姿の美少年に馬乗り組み敷いていた。


サンディが大好き夜の猥談での話によると貞操が逆転しているこの世界で男に馬乗りになる女というのは非常に体面が悪い。なぜなら行為時に女は男に跨り馬に騎乗するかの如く跨って腰を振る…そう、騎乗位がこの世界での行為の基本スタイルなのだ。

そして今、私はこの眼下の美少年に対してそのような姿勢をとっている。この世界の基準でいうなら今の私はさしずめ強姦魔のそれだろう。デュオは私の格好を見てドン引きしているのが見なくても分かった。


(エリカチャン!ここで引いたら女がすたるワ!据え膳食わぬは女の恥でしょ!!さぁ!最後までいくわよ!!!!)


妖精さんがサンディみたいな低劣な発言をする。基本彼女は私の妄想の産物なのだがどうしてサンディの悪影響を受けているのか…「据え膳食わぬは女の恥」なんて男女を逆にしただけの雑な諺を使っているがあえてツッコミを入れよう、言わねーよ。


(下のお口で食べるのは女でしょ!!あってるわよ!?!?)


やかましいわ。

私の下で息を荒げている美少年が目を潤ませか細い声で抗議の意思を示す。


「やめてぇ…ください…」


え…キミめっちゃ私の魂取り込もうとしてたよね?どう考えても敵だしなんなら私先制攻撃受けたし拘束しておかないとなにしでかすかわからないでしょ?なんで涙目で被害者みたいなツラしてんの…

それとも弱い立場である男の子を嬲っているという罪悪感を感じればいいの?私は突然現れた被害者に困惑と何故か悪役になっているという苛立ちから混乱していた。

そんな私の肩にデュオの掌の感触があった。混乱の沼に沈んでいた意識が醒める。

全裸の少年を組み敷く、まるで行為中の私を見つめ顔を赤くしたデュオはおずおずと何かを差し出してきた。


「あの…エリカ…その……これを…」


そうして私に差し出されたのは予備の首輪だった。

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