第16話 土地の主人になった気分

 突飛な反応ではなかった。

 だれでも思いつくのようなことを閃いたミクスは、早速契約しても良いか尋ねていた。


「と言うわけで、契約しても良いかな?」


 テリーベアーとエンシェントウルフはポカンとしている。

 それもそうだとミクスは思うが、腰を落として目と目で会話すればきっと伝わると信じている。


「駄目かな?」


 目に圧は無かった。

 圧迫面接は絶対にやってはいけなかった。


 相手との心を通わせることが大事だ。

 それができないと縛り付けるだけで良くなかった。


 すると真っ先に頭を下げたのはテリーベアーだった。

 如何やら恩を感じているらしい。


「俺は構わない」

「テリーベアー……素直だね」


 威厳が感じられなかった。

 完全に爪の折れた熊だった。


「俺の身は既に死んでいた。そこから救い出して貰った恩人にこの命を捧げるのは惜しくない」

「別に熊肉なんて食べないよ」


 テリーベアーの言い方がまさしく食べられる前の反応だったので、急遽訂正した。

 ミクスは頬の筋肉を攣りそうになったが、とりあえず良さそうだった。


「そっか。それじゃあ契約用の魔法陣を……」

「待ってください!」


 エンシェントウルフが再び口を挟んだ。

 今度は何かと思ったが、その隣にはスライムが居た。


 如何したのかと思った。

 しかし言葉が分からないので困惑していると、スライムが頭を下げ? エンシェントウルフが代弁した。


「この者も契約したいそうです」

「契約? 私と? 良いの?」


 別に来る者拒まずだった。

 モンスターなら契約しておいても損はないのだ。

 

 ピョコン!


 スライムはピョコンと飛び跳ねた。

 如何やら同意してくれているらしい。


「分かった。それじゃあ全員陣の中に入って」


 ミクスは素早く魔法陣を描いた。

 魔法陣を描くためには自分の血を使うのが最も手っ取り早かった。


 サラサラと手首を切り、魔法陣を描いた。

 体の中から血液が失われていく感じがやんわりとし、ミクスは唇を噛んだ。


「それじゃあ契約契約……それじゃあ、やるね!」


 ミクスは特に掛け声も無かった。

 魔法の詠唱を一切することなく、指をパチンと鳴らした。


 とっても味気なかった。

 けれど目の前では面白いことが起きている。


 魔法陣の中がブワッと光出したのだ。

 テリーベアーやエンシェントウルフの姿が見えなくなり、ミクスが契約用の魔法陣の外から声を掛けた。


「みんな、調子は如何かな?」


 ミクスが声を掛けると、モンスター達の声が薄っすら聞こえた。

 それから程なくして、眩い光が収束した。


「「「ヴァッ!」」」


 モンスター達が四つん這いになっていた。

 体力をごっそり持って行かれたようで、ミクスは頭を撫でる。


「お疲れ様。一応契約は終わったよ?」


 モンスター達も何か伝わっている。

 ミクスの莫大かつ練度の高い魔力が流れ込んできたので、辛そうに見えた。


「ごめんね。私の魔力、強いから」


 ミクスは頬をポリポリ掻いていた。

 モンスター達はジッとした話を聞き、目を回している。


「えーっと、契約はできたけど名前がまだだよね? うーん、考えてなかったなー」


 ミクスは空を見上げた。

 名前を付けないといけないのに思い付いてなかったので、とりあえず振り絞って考える。


「テリーベアーはグマラァ。エンシェントウルフはガルル。スライムはスラミン。とかかな?」


 あまりにも語彙力が無かった。

 ミクスもピンと来ていなかったが、思い付くのがそれしかなく仕方ないとした。


「まあとりあえずこの山の問題は一つ終わったかな。無事解決して一件落着……で良いよね?」


 何はともあれ、終わったからには清々しい気分だった。

 この山の為にも麓の村のためにもなったしで、ミクスは万々歳の結果だった。


「っとその前に……三匹とも大丈夫? 立てる?」


 ミクスが声を掛けてみた。

 三匹はぐったりしていて動けないままだ。


 そんなにミクスの練度の高い魔力を浴びてしまったのかと疑問に思ってしまう。

 本人からしてみれば何ともないが、相当なものだった。


「仕方ないね。ちょっと待って……」


 このままにしておくわけにもいかなかった。

 ミクスはモンスター用の栄養剤を作ることにした。


 この山には天然の素材がたくさんあった。

 ここに来るまでの間に実は積んでおいた草花や街で買ってきた蜂蜜を使って簡単なポーションを作る。


「《調合》!」


 指をパチンと鳴らした。

 するとあっという間にポーションが完成した。


 今回はカラメルが入っていた。

 ちょっとだけ黒っぽかったが、鼻を近づけるともの凄く甘い香りがした。


 鼻腔を貫く強烈な蜂蜜の甘さ。

 それから涙白百合の蜜を加えて優しくかき混ぜると、モンスター用の栄養剤が完成する。


「はい、三匹ともコレ飲んでね」


 ストローを差して三匹の前に置いた。

 ぐったりしていたので加えさせ、空気を送ってでも無理やり飲ませる。


「「「ヴァウッ!?」」」


 三匹が急に目をカッと見開いた。

 如何やら無事に立ち上がれそうで、嬉しそうな表情を浮かべていた。


 何だかこの土地の主人になった気分だった。

 モンスターに施している、ミクスは自分のことをそんな風に例えてしまっていた。


 しかし誰も否定はしなかった。

 だってミクスはこの山の主人なのだから。


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 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 実際のところあまり読まれてない感じなんですよね。

 なので予定通り不定期更新に入ります。

 もしかしたら投稿はしないかもです。


 よければブックマーク登録な星で評価してくれたら嬉しいです。

 それではとりあえず章が一つ終わったので、一旦離脱しまーす! (次の作品は続く……

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天才魔法使いさん、辺境の村でモンスターと一緒にポーションを売っています〜万能魔法《調合》で全部混ぜてしまいましょう! 水定ゆう @mizusadayou

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