第15話 モンスターと契約したい

 テリーベアーが目覚めるのを待った。

 すると「グルルマァ」と唸り声が聞こえた。


 如何やら薬の効果が出始めた。

 全身の毛が逆立つと、爪の先から紫色の液体が出始めた。


「何ですかアレは!」


 エンシェントウルフが警戒した。

 立ち上がると「ガルルゥ!」と吠えた。


「大丈夫だよ。アレは体内に溜まった毒が外に排斥されているんだから」


 人間で言えば血管から毒素が出ているようなものだ。

 確かに見た目はグロいが、それでも効果は覿面てきめんだった。


「後は口から……」


 するとテリーベアーの背中が盛り上がった。

 何かと思った瞬間、口からドロっとした塊が出て来た。


 紫色をしていた。

 粘りが強く、唾液が絡み付いていた。


 まるで痰のやうだった。

 しかし猫が毛玉を吐くのと同じように、毒素を寒天成分が包み飲んだことで、外へと上手く出てくれた。


「ぬぁっ!?」

「そんなに驚かないの。どれどれ……うんうん、全部出てるね」


 ミクスは見た目だけで判断できた。

 魔力を通すことでパーセンテージを把握したのだ。


 その結果、あらかたは排斥されていた。

 テリーベアーの呼吸も安定した。


 一安心と胸を撫で下ろした。

 しかしエンシェントウルフはまだ警戒していた。


「そんなに警戒しなくても良いのに……」

「いつ攻撃してくるか分からないので」

「テリーベアーはそんなに凶暴じゃないよ」


 ミクスはエンシェントウルフを宥めた。

 それから動き始めたテリーベアーの元に駆け寄ろうとした。


 しかしテリーベアーは辺りをキョロキョロ見回した。

 それからくるりと振り返ると、ミクスとエンシェントウルフの姿を見つけた。


「あっ!」


 目が合ってしまった。

 流石にマズイかなと思ったのも束の間、テリーベアーはゆっくりとのっしのっしと近づいて来た。


「ガルルゥ!」


 エンシェントウルフが前に出た。

 威嚇をしているが、テリーベアーは動じなかった。


 ミクスが代わりに前に出た。

 エンシェントウルフの鼻先に手を出し、止めるように伝えた。


 エンシェントウルフは何故か大人しくなった。

 信頼してくれているのかと思ったが、テリーベアーは如何か分からないので、ミクスは多少は警戒した。


「流石に攻撃して来ないよね?」


 この間合いだ。ミクスが百%間違いなく勝つ。

 断言できた。それだけの実力差があった。


 テリーベアーはそれでも近づいた。

 ミクスは軽く指を鳴らそうとしたが、テリーベアーがまさかの行動をした。


「助かった。感謝する」

「えっ?」


 頭を下げたのだ。

 しかも喋ったので、ミクスは瞬きを繰り返した。


「助けて貰った。礼を言う」

「あっ、お礼? いや、別にそんなの……」

「そうです。しかしもっと礼を尽くすべきですよ。貴方はどれだけのことをしたと思って……」

「分かっている。だからこそ、本来は死して償うべきところを毒抜きをして貰った挙句、命を救って貰った。これ以上、何を感謝すれば良いのか俺には分からない」

「私は許しませんよ。この気高き身を傷を付けたこと。生涯恨むでしょうね」


 テリーベアーとエンシェントウルフの口論が続いた。

 しかしミクスは黙っていた。

 むしろ困惑していた。


「えーっと、とりあえず言わせて……喋れたんだ!」


 ミクスは如何しても言いたかったことを口にした。

 まさか二匹とも喋るタイプのモンスターだったとは思わなかった。


 いいや、エンシェントウルフなら納得はいった。

 けれどテリーベアーまでもと思うと、流石に顳顬を抑える始末だ。


「あのさ、喋るなら喋ってよね。それだったら発勁なんてしなくても良かったのに」


 とは言え今更だ。

 毒のせいで全身が自分のものでは無くなっていた。

 

「すまなかった。感謝する」

「だから感謝するで済む話では……」

「まあまあよそうよ。とりあえず無事に戻って良かったよ」


 ミクスは二匹の間に入り、もう一度口論になりそうになったので止めた。

 テリーベアーもエンシェントウルフも黙ってしまうと、ミクスは咳払いをした。


「あーこほん。それでこれから如何するの?」

「「ん?」」


 テリーベアーとエンシェントウルフと首を捻った。

 しかしミクスからしてみればこれ以上何を論点とするのか分からなかった。


「表面を抉られた木は時間経過でしか治らない。魔法や薬で元の姿に戻そうとすると、後でその付けが回ってくるんだよ」


 ミクスの作るポーションも固有魔法も最強だった。

 しかし最強であっても何でもできるわけではなかった。

 人が決めた中での最強は結局のところ、百%にはならないのだ。


「と言うことで考えても無駄なんだよ。だから過去の話よりも今の話をしようよ」

「今の話?」

「そう言うこと。この山には他にもたくさんのモンスターがいるはずだ。だからね、この山の主的な存在が居なくなられると後々面倒なわけ。と言うわけで、テリーベアーだっけ? 貴方とエンシェントウルフにはこの山の主として君臨して貰うからね」


 ミクスは一方的に言った。

 するとテリーベアーとエンシェントウルフは互いに目配せをした。


「駄目かな?」

「駄目ではない。が、コイツとか」

「私も構いませんよ。ですがコレとですか」


 お互いに相当恨みを持っていた。

 このままは良くない。この山の生態系にとっても毒だと悟った。


 そこでミクスは知恵を絞った。

 何か良い知恵はないかと頓知を考えた。

 するとピコン! と良い考えが浮かんだ。


「そうだ。私が二匹と契約すれば良いんだよ!」


 ミクスは閃いたつもりだった。

 けれど勘の良い人ならすぐに気付けたはずだ。


 如何転んでもこの展開になったはずだ。

 とは言えミクスは今閃いたので、凄い大発見だと思い込んでいるのだった。

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