第14話 毒抜きをしてあげました

 ミクスはテリーベアーをあっという間に倒してしまった。

 その光景を目の当たりにしたエンシェントウルフとスライムは呆然としていた。


 それもそのはずで、エンシェントウルフは敗れていた。

 もちろん負けたわけではないが、傷を負ってしまった。


 そんな相手をさも当然のように倒してしまったので、エンシェントウルフは無言になった。


「とりあえずこれで良いかな?」

「……」


 ミクスはエンシェントウルフに尋ねた。

 しかし何も返ってこなかった。


「黙られると困るんだけど」

「すみません」

「聞こえてたなら言ってよ!」


 ミクスはちょっとだけ怒ってしまった。

 しかしエンシェントウルフは目の前で起こったことが信じられず、ミクスのことをじーっと見ていた。


 如何やらミクスの強さに惹かれたようだ。

 一体この人間の何処にそんな力があるのかと、分析しているようだった。


 しかしミクスはケロッとしていて、何事もなくテリーベアーに近付いた。

 その後ろをスライムがピョコンピョコンと飛び跳ねていた。


「スライム、さっきの葉っぱ貸して」


 スライムの頭の上には紫色の花の花弁が乗っていた。

 体を伸ばして手元へと運ぶと、ミクスは有り難く受け取った。


 それから指を鳴らした。

 鞄の中のものを取り出して、その中に水を貯めた。


 真下からもう一度指を鳴らした。

 すると今度は炎がボワッ!っと上がった。

 ミスクの《調合》は空気さえあれば、水と炎は確保できた。


「とりあえず毒抜きをして……後はさっき手に入れた白い木の実」


 粒々の木のみを粉末にしておいた。

 この木の実を加えることで、体内の毒を完全に排斥することができた。


「何をしているんですか?」

「決まってるでしょ? テリーベアーの中に残る毒素を吐き出させるんだよ」


 エンシェントウルフが尋ねた質問にも平然と答えた。

 しかし「ガルルゥ!」と唸り声を上げた。


「如何して怒るの?」

「このモンスターは既に多くのモンスターを手に掛けた。この森に生きるものとして生かすなど反対です」

「そっか。でもそれは貴方達のルールでしょ? 私には関係ないよ」


 ミクスはさらりとしていた。

 エンシェントウルフは返されてしまったので驚くものの、ミクスはその間にポーションの概ねを完成させた。


「後は三十分煮詰めるだけ」


 白い木の実を粉末状にしたのには意味があった。

 鞄の中でグツグツと煮えたぎっていたが、少しとろみが付いていた。


「上手くできてる」


 この白い木の実がアクセントになっていた。

 しかし多くのモンスターにとっては意味不明な行為だった。

 もちろん魔法使いのほとんどが知らない知識だ。


「それは?」

「これはドクダシ草を煮詰めたものだよ。生で食べると危ないけど、こうして煮沸して毒素を抜けば大丈夫。それとこの木の実ね。コレはカンテンの実?」

「カンテン?」

「そう寒天。まあ見てたら分かるよ」


 興味深そうにするエンシェントウルフ。

 ちょこんと座って眺めていると、鞄の中の液体が纏まり始めた。


「ワフッ!?」

「犬かな? いや狼は犬か?」

「狼です!」


 ツッコミを入れられてしまった。

 それだけ元気ならもう一安心しても良いはずだ。


 ミクスは鞄の中にお玉を入れた。

 ゆっくり汲み上げると、プルルンとした白っぽい塊が手に取れた。

 スライムのようだが、コレは寒天だ。


「はい。できた」

「それが寒天?」

「そう寒天。後はコレを食べさせます」


 ミクスはテリーベアーの口を開けた。

 小さくした寒天を食べさせた。

 こうすることで喉に詰まらないように保護するのだ。


「後は時間が経つのを待つだけ」


 この寒天の効果はしばらくしてから現れる。

 ミクスは効果が出てくるまでを計測し、しばらく待つことにした。


「これで良いのですか?」

「良いよ良いよ。私の作る薬はほぼ九十%完璧だから」

「百%では?」

「そんなの無いよ。この世界に完璧は無い。偉い人がそう言ったからね」


 とは言え完璧を目指すことはできた。

 ミクスは完璧と言いつつも、自分の中で完結しているだけだ。

 そのため完璧とは程遠いかもしれないが、それでも割り切るのが一番だった。


「それで二匹はいつまで居るの? もう大丈夫。後は私に任せておいてよ」

「そうはいきません」


 エンシェントウルフは食い下がった。

 本当はもうここに居る必要は無かった。

 何故ならミクスが見守っていれば全てが完結した。


「いつ暴れるか分からない相手を放っておくなどできません」

「律儀だねー。でもそれだから良いのかな?」

「この山のモンスターとして当然の心得です」

「心得ね。堅っ苦しいの嫌いかなー」


 ミクスは暇なのでエンシェントウルフの頭を撫でていた。

 するとスライムが頭の上に乗り、ジトーッと広がった。

 冷却シートみたいに見えて来たので、ミクスは頭を乗せた。


 プニッ!


 ひんやりとして気持ちが良かった。

 エンシェントウルフの体にもたれかかっていた。

 しかし嫌悪されることもなく、ミクスはテリーベアーが目覚めるのを待った。


「気持ち良い」


 こんなにまったりのんびりできるとは思っていなかった。

 如何やら楽しくなって来そうで、今がとても楽しかった。

 目の前でいつ起きるか分からない巨大な熊を眺めなくて済むのならば。

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