第13話 テリーベアーを倒しました(魔法は使いません)

 ミクスの目の前に黒い爪が飛んできた。

 避けきれないと悟ったミクスは、すんでのところで《調合》を使った。


 いいや使わされたと言っていい。

 ミクスは頭の中で作りたい物をイメージし、即座に可能にする。


「危ないな!」


 ミクスは急いで空気を調合した。

 空気の膜を作り出すと、テリーベアーの黒い爪が触れないようにした。


 とは言えギリギリのところだった。

 ほんの数秒でも判断に迷いが生じれば、顔面を簡単に貫かれていたはずだ。


 ミクスはギリギリの生死を体感した。

 むしろ体感したくはなかったが、まさかこんなことになるとは思わなかった。


「よっと!」


 ミクスは攻撃を防いでいる間に右に避けた。

 するとテリーベアーが暴れ出し、さらに攻撃を繰り出した。


 空気の膜が破かれるのも時間の問題だった。

 ものの五秒程で破壊されてしまったので、相当なパワーを秘めていた。


「ちょっと強すぎない?」


 ミクスはちょっと焦っていた。

 するとエンシェントウルフが飛び出した。


「ガルルゥ!」


 テリーベアーの腕に噛み付いた。

 深々と牙が毛皮を噛み、ダメージを与えていた。


「グマァァァァァァァァァァ!」


 しかしテリーベアーも負けていなかった。

 噛まれた痛みからか暴れ出し、腕をぶん回した。


 するとエンシェントウルフが吹き飛ばされた。

 しかし四肢を巧みに使い、軽やかに着地した。

 まるで猫のようだったが、目だけは威嚇を怠っていなかった。


「ガルルゥ!」

「グマァ!」


 お互いに縄張り争いでもしているかのようだ。

 如何やらこの山を二分している存在のようで、リーダー的に立ち振る舞っていた。


 ピョコン!


 するとスライムがミクスの隣に駆け寄った。

 頭の上に紫色の花の花弁を乗せていた。


「如何したの?」


 スライムが花弁を調べて欲しそうにしていた。

 しかし調べなくても良かった。

 その花はミクスの想像通りだった。


「やっぱり。この花弁を食べたの?」


 スライムが持ってきた辺り間違いなかった。

 つまるところ、今のテリーベアーは……


「食当たりだ」

「食当たり?」


 エンシェントウルフが首を捻った。

 モンスターにとって食事は絶対に必要な要素ではなかった。


 しかし必要な栄養素や習性を満たすために食事を摂ることもあった。

 何故なら食べた方が栄養にも繋がり魔力的な効率も良かった。


 しかし食べてはいけないものもあった。

 モンスターには知恵と言うものもあるが、食べても良いものと悪いものの判断が鈍かった。


「それだ今回のことね。オッケー、大体分かったよ」


 ミクスはスライムの頭を撫でた。

 プルルンと柔らかくてひんやりと冷たかった。


 それからテリーベアーにもう一度対峙した。

 今度は本気だ。攻撃が当たらないように注意もした。


「とりあえずその爪を防がせてもらうね」


 ミクスは人差し指を突き付けて宣言した。

 周りに生えていた蔦を引き千切り、天然の網を作った。


「まずは生け捕りから……ねっ!」


 ミクスは微笑んだ。

 すると気を荒くしたテリーベアーが襲い掛かり、鋭い爪を突き出した。


「危ない!」

「大丈夫だよ」


 エンシェントウルフの制止を振り払った。

 それには訳があった。確証があったのだ。

 勝利のビジョンは既に描かれていた。


「グマァ!」


 鋭い槍のように黒い爪を突き出した。

 しかしミクスには効かなかった。

 

 目の前に突き出された爪は、ミクスの右手をくり抜く寸前だった。

 しかししゃがみ込んでかわすと、そのまま腕に網をクルクルと巻き付けた。


「後は……ほいっ!」


 とりあえず腕を押さえ付けた。

 蔦でできた網は刺々していた。

 チクチクと剛毛の毛皮に絡み付き動きを鈍らせると、その隙に距離を詰めた。


「は、速い!?」

「プキュー!」


 エンシェントウルフとスライムが驚く中、みくすはさも当然のようにテリーベアーの心臓部分に手を当てた。

 ここには親族の代わりに魔石があった。


「やっぱり穢れてる」


 魔石に魔力を送った。

 すると流れが滞り、かなり乱れているのだ。


 こうなった原因はあの紫色の花弁。

 名前はドクダシ草と言う。


 名前的に毒抜きをしてくれそうだ。

 しかしお湯で煮立ちさせることでようやく飲めるのだ。


 どくだみと同じような使い方が主流で、生で食べたら絶対に駄目だった。

 食べれば毒が全身の血液を蝕み、赤血球に乗って心臓や脳を激しく痙攣させた。だから絶対に一噛みでもアウトだ。


「どうせアレだよね? とにかく食べてみたんだよね? 最初はそうだよ。誰だってそうだよ。先人の知恵を頼って私達は今を生きているんだからさ。でもね……他のモンスターに迷惑を掛けたら駄目でしょ?」


 テリーベアーに対して怒りを露わにした。

 ミクスは鋭い眼でテリーベアーの魔石へと発勁をした。


 テリーベアーは白目を剥いた。

 急に力が抜け、ミクスへともたれかかった。


「いや、流石に無理だから!」

「ガルゥ!」


 エンシェントウルフがミクスの腕を引っ張った。

 テリーベアーだけがうつ伏せで地面に伏せると、ミクスはたった一撃で仕留めてしまった事実に「あれれ? もしかしてもうお終い?」と首を捻るしかなかった。

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