第12話 大きな熊を見つけたよ

 ミクスはあまり乗り気じゃなかった。

 むしろ面倒だった。


 直感したのは悪しき魔力だった。

 全身を貫くように放たれた強烈な魔力の波動を体が受け止めたのだ。


 ミクスは大きく落胆した。

 正直に言えば、何となく判った。


「コレってアレだよね? 熊だよね・・・・?」

「如何して判るのです?」

「如何してって……戦ったことあるから」


 ミクスは答えが分かっていた。

 とりあえず答えが分かったからといって、このまま帰るのは無理があった。


 流石に強いモンスターなら、ミクスが撒いたモンスター避けも無意味だ。

 村の方に降りて来られると、どれだけの被害を被ることになるか分からなかった。


 それこそ村の人がみんな食い殺されることだって過去にはあったそうだ。

 そんな真似をこの村でさせるわけにはいかないので、ミクスは先手を打つことにした。


「仕方ないから倒しに行くよ」


 ミクスは立ち上がった。

 この魔力を辿ればそのうち見つかるだろうから、見つけ次第速攻で仕留めることにした。


 しかしミクスが歩けなくなった。

 エンシェントウルフに服を噛まれてしまったのだ。


「あの、離してくれないと服が破けちゃうんだけど?」

「ガルルゥ!」


 エンシェントウルフは絶対に行かせない信念を持っていた。

 如何やらそこまでヤバいことになっているようで、エンシェントウルフの話を聞いた。


「ちなみにどれくらい強いの?」

「私に怪我を負わせる程と言えば?」

「そっか。それはマズイね。かなり強いね。……それじゃあ」

「ガルル!?」


 エンシェントウルフは再び噛み付いた。

 本気で服が破けそうになるので不安だった。


「あ、あの?」

「駄目です。命の恩人をみすみす死に追いやるような真似、私はしません」

「命の恩人って大袈裟だな。でも大丈夫だよ。私、負けないから。もちろんモンスターも負かさないから」


 エンシェントウルフの説得を試みた。

 しかし「ガルル」と吠えるだけで、全く信用してくれなかった。


 エンシェントウルフに信用されているのは逆に考えれば嬉しかった。

 しかしミクスは困ってしまった。


 こうしている間にも魔力がより濃くなっていた。

 つまり距離が詰まってきていた。

 ミクスは頬を掻きながら、困り顔を浮かべていた。


「それじゃあ一緒に行こう。それでいいよね?」

「ガルゥ?」


 エンシェントウルフは首を捻った。

 スライムもちょこんとしていた。


「エンシェントウルフ、スライムを乗せてあげて。私は先に行くから」

「待ってください!」


 ミクスは待たなかった。

 待っている暇はなかった。


 エンシェントウルフは傷の癒えた体を起こした。

 それからスライムを頭に乗せると、ミクスを追いかけた。


「何か算段が!」

「無い。でもここにはいっぱいあるからね!」


 ミクスはエンシェントウルフの質問を一蹴した。

 何も作戦などは無いが、とりあえずこの山には色んなものが落ちていた。


 ミクスにとってはそれだけで大きな武器になった。

 落ちているものが《調合》と化学反応を起こし、何にでもなってくれた。


 坂道を駆け上がった。

 その際も周囲を観察して使えそうなものが無いかと調べた。


 すると面白いものを見つけた。

 白い粒々が付いた木の実を少しだけ貰った。


「コレは良い。かなり使える」


 そうこうしているうちに坂を登り切って。

 ふと眺めてみると、たくさんの鋭い爪痕が木の幹に入っていた。


 かなり酷い有様だった。

 ここで白熱する戦闘が繰り広げられていたようだが、片方はエンシェントウルフのものだ。

 しかしもう片方は太くて分厚い爪痕だったので、ミクスは確信した。


「やっぱりあのモンスターだ。それにしても、この紫色の液体は……すんすん。あー、なるほどね」


 ミクスは木の幹に付着してい紫色の液体が気になった。

 近付いてニオイを嗅いでみると、「あー」と納得した。


「熊だね。しかも……」


 すると後ろから睨まれた。

 鋭い魔力を感じ取り、ミクスは言葉を詰まらせた。


「危ない!」

「分かってるよ」


 ミクスはしゃがみ込んだ。

 すると頭のあった場所を何かが切り裂き、少しだけ髪の毛が持って行かれた。


「あ、危ない」


 ミクスは冷や汗を掻いていた。

 しかしこれで確信した。


 黒くて分厚い爪が見えたのだ。

 振り返ってみると、そこには茶色に毛皮に覆われた巨大な熊がいた。


「テリーベアー。まあ、妥当かな」


 そこにいたのはテリーベアーと呼ばれるモンスターだった。

 名前は可愛いのに、見た目がゴツかった。

 性格は割と温厚だった。


 とは言え何か起きればその恵まれた体格を活かして攻撃してくるのだ。

 ミクスは今まさにその脅威を目の当たりにした。


「グマァ!」


 目が血走っていた。

 一体全体何があったのか、ミクスはあの紫色の液体を見て溜息を吐いた。


「如何して食べたんだろ?」


 とりあえずさっき手に入れた白い木の実を使うことになった。

 とは言え、まずはその隙を窺うしかないので、一度倒すのは必然となった。


「それじゃあ倒そうかな……うおっ!」


 しかしながら、テリーベアーが先手を取った。

 強烈な爪攻撃が目の前にまで迫っていた。

 

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