第11話 今度は狼の治療をしました
エンシェントウルフは怪我をしていた。
右脇が抉られ、酷く損傷していた。
まさか気が付いてやれなかったとは。
ミクスは酷く後悔していた。
しかし後悔しても後には立たない。
ミクスは鞄の中からポーションを取り出す。
昨日作ったものとはまた一味違っていた。
中身はより濃い緑色をしていて、再調合し直した一品だった。
つまるところ、効能は桁違いにアップしていた。
ミクスは眉根を寄せて訝しい顔をしたまま、瓶の蓋を開けた。
ポンッ!
中の液体がたぷんたぷんに揺れた。
気泡などは特にできず、滑らかだった。
飲みやすそうだ。
「とは言え飲まないんだけど……」
この薬は飲み薬では無かった。
大抵ミクスが作るポーションは飲むことで効果を発揮するのではなく、浸したり掛けたりすることで意味を成した。
「エンシェントウルフ。ちょっと怪我の具合を見せて……痛っ!」
エンシェントウルフの怪我の具合を見ようとした。
しかし硬化した尻尾をナイフのように鋭くして抵抗した。
右手の甲から血が出ていた。
ミクスは奥歯を噛み、痛みを堪えた。
回復魔法を使って止血した。
まさか反撃されないと思っていたなんて、ミクスは浅はかだった。
「そうだよね。やっぱり攻撃してくるよね」
ミクスはそれでも治そうとした。
本当はエンシェントウルフにも回復魔法を使ってあげたかったが、後々のことがあるのでそれは使いたくなかった。
「せめて一振りしたいんだけど」
その隙すら与えてくれなかった。
エンシェントウルフは人間を警戒していた。
心を開いてくれる気はしなかった。
けれど治してあげたいのは本音なので、もう一度挑戦した。
ゆっくり手を伸ばした。
しかしエンシェントウルフは睨みを利かせ、指を噛もうとしてきた。
しかしミクスはその隙を逃さなかった。
ポフッ! とエンシェントウルフの首筋に手を回し、ゆっくりと撫でた。
「はい、捕まえた」
「クゥーン!」
エンシェントウルフは甘い声を出した。
ミクスが手を回して、エンシェントウルフのつぼを押したのだ。
もちろんただ押したのでは無い。
普通に押しただけどと反撃されてしまう。
そう思ったので魔力を流した。
もちろんエンシェントウルフ好みの魔力に調整してあった。
これができるのも、《調合》の固有魔法ならではだった。
「ごめんね。さっきは勝手に触ろうとして。でもね、私は貴方の怪我を治してあげたいの。だから、傷を見せてくれないかな?」
ミクスは目を見て話をした。
まずは相手の目を見る。それができないと、たとえ人でモンスターでも関係ない。
相手の好感を下げ、話なんてとてもできたものじゃない。
「キューン!」
スライムが鳴いた。
ミヨンに懐いている姿を見たエンシェントウルフは仕方なく心を許した。
頭を下げて後ろを向くと、傷口を晒してくれた。
弱点を露見させてくれたので、しっかりと治療をすることにした。
「ありがとう。それじゃあ垂らすよ」
ポーションを一滴振り掛けた。
濃い緑色の液体が傷口に触れた。
すると急速に失われた魔力が反応して、傷を癒してしまった。
「うわぁ、凄い。凄い凄い! まさかこんなに治るなんて……」
ミクスは自分が作ったポーションの効果をこの目で見て驚いてしまった。
予想以上のできに、万能なミクスの固有魔法のおかげだと思った。
「毛並みも艶々! 完璧だね!」
ミクスは大満足の結果に胸を撫で下ろした。
それから自分の活躍に誇りを持った。
エンシェントウルフも驚いていた。
「クゥーン」と鳴いて、瞬きをしていた。
「これで完璧。良かったね」
「……ありがとうござます」
「どういたしまして……ほえっ?」
急に人間の言葉が聞こえてきた。
うっかりミクスは返事をしてしまったが、一体何処から聞こえてきたのか気になった。
しかしエンシェントウルフが頭を下げたのを見て確信した。
間違いなく人間の言葉を発したのは、このエンシェントウルフだった。
(や、やっぱり喋れたんだ……)
ミクスは「それなら最初から喋ってよ」と言いたくなった。
しかしここは押し殺して、エンシェントウルフに尋ねた。
「体の調子は如何?」
「問題ありません」
「そっか。これで一安心……とは、言えないよね。何があったの?」
まずは事態の収拾を図った方が良いと判断した。
ミクスの問いかけにエンシェントウルフは「クゥーン」と鳴いた。
「もしかして密猟者に襲われた?」
「いいえ、人間ではありませんよ」
「それじゃあ何? もしかしてモンスター?」
「アレは……この山の秩序を乱す悪魔です」
エンシェントウルフは警戒した。
「グルル」と牙を剥き出しにした。
エンシェントウルフがここまで嫌悪するモンスターがいるのか。
ミクスは少し考えてみた。
腕組みをして考えてみると、選択肢が多すぎて見当が付かなかった。
そこで言葉から絞り込んだ。
「山の秩序を乱す? ……一体何が……はぁっ!?」
ミクスは嫌な気配を感じた。
この魔力はかなり澱んでいた。
ミクスは知っている。
この荒々しく傲慢な魔力は、とんでもなくヤバいと直感してしまう。
この坂の向こう側にいるようだ。
ミクスは「コレを相手にしないといけないんだ」と吐露してた。
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