ネズミの行進
豆腐数
〇〇〇ーマ〇スマーチ始め!(このタイトルはネズミに齧られました)
仕事も終わり、真っ暗な夜道を歩いて帰って来て玄関先でただいまの代わりにあ゛ー、うー、とゾンビの呻き声みたいな言葉を発しながら家に帰って来て電気をつけたらネズミがいた。築八十年、古くて家賃の高いこの家では同居人みたいなもんだが、疲れてる時にこんなもんと対面するとテンションも下がる。
今度駆除業者呼ぶかとか考えたけど、ネズミの顔が威嚇に鳴くこともなく、あんまりキョトンとしていたのでそんな気も失せる。ボロボロに疲れていたせいなのか、スーツスカートもタイツも脱ぐ前に、ソイツにむかって冷蔵庫にあったチーズの塊を放り投げてしまった。良い子は真似しない事。
「チュー♪チュチュー♪」
どこからかネズミの仲間が出て来て、チュウチュウチーズの周りをグルグル回った後、最初にいたネズミがチーズを頭に乗せる。仲間はそいつの後ろに一列で並ぶ。
ネズミ家族共はチュー♪チュー♪チュチュチュー♪とよくわからない歌を歌いながら、二足歩行で巣穴の方へと帰って行った。食料を得た動物達の、勝利の行進といったところだ。
「ハハハ」
子どもの頃夢見たファンシーな光景に、乾いた笑いが出る。けれど、頭の中のどこかは確実に水を得て潤う。何故かくるみ割り人形とネズミの王様のお話を思い出したけれど、あれは冒頭でネズミが殺されてたっけな。勝手にハムを食べた罪で水責め、ボチャンプクプク。
この夜以降、仕事帰りのスーパーの籠にチーズを放り込むのと、ネズミ達の観察日記が日課になった。この不思議なファンシーネズミ共は、チーズの形もファンシーの方が喜ぶようで、とろけたり裂けたりするのやペラペラしたのより、チーズケーキの形をした三角のやつの方が行進も派手になる。
穴空いてるファンシーチーズならどうなるかなって思って、お取り寄せしてみた。ホールケーキみたいにまん丸くなくて四角くてまぁまぁ高かったけど、ネズミが喜ぶと思って三角に切ってあげた。
「「「「「ヂュ!ぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢ!」」」」」
ネズミ達はいやにリアルに鳴いた後、私の周りをぐるぐる回った。神采配私への祝福らしいが、私がネコ型ロボットだったら悪夢だ。その日の行進は気合が入っていて、一度巣穴に戻り、軍服を着てオモチャの長銃や剣を携えたネズミ達が横一列、乱れ一つなく並ぶ。
「「「「「「「「「「「「ヂぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
家中のネズミが出て来て敬礼。決戦の準備は出来たと言うように。
翌朝、私の職場は壊滅した。セクハラハゲ上司も、嫌なババアも、見たくもないデスクも椅子も、みんなみんなネズミ達に齧られていく。私の日常の一部がなすすべなく削られていく。
会社のビルごと、ネズミの歯に齧られてなくなった。通行人がアレ?と何もない跡地の前で首をかしげているのを他所に、私は口笛を吹きながらその場を後にする。ネズミはチュウチュウ後をついてくる。とんだハーメルンの笛吹きだ。
今なら世界だって滅ぼせるかもしれない。だけどまあ、とりあえず。ネズミの仲間になった記念に、家へ帰ってチーズでも齧ろうか。
キュートな長いしっぽを揺らして、人間を捨てた私は進む。勝利の行進だ。
ネズミの行進 豆腐数 @karaagetori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます