第24話 魔族発見!ジュッ!


 俺の前に立ち塞がる問題は明確だ。


 洞窟から際限なく湧いてくるモンスターの群れ。これが鬱陶しい。


 俺達の行動を制限する以上、存在するだけで危険な連中だ。放置すれば麓の村を襲うだろう。俺達はモンスターの大群スタンピードを殲滅する必要がある。


 だから、するまでだ。


 ヒットアンドアウェイは割に合わない。真正面から全員叩き潰せば取り零しもないし、視界に収めた敵のみを殲滅すればネクサス達に被害が及ぶ心配もない。


 怒りを胸に突き進むのみ。


「ナシュア、背中にピッタリ着いてこいよ」


 魔法の火力が高過ぎると自傷の恐れがあるものの、火力を控えめにすれば『服』を着る必要がない。スタンピードとはいえ一体一体は普通のモンスターなわけで、数十センチのファイヤーボールに貫かれたら致命傷になる。だから今の俺は敢えて『服』を着る必要がないのだ。


 氷の魔法は敵を倒すためではなく足止めのために使えば良い。ファイヤーボールの補助魔法として使う分には有用だ。


 そして、数十メートルのファイヤーボールを使わなくても良いなら、近距離の戦闘を拒否するためにゴッドハンドが使えるわけだ。


 どちらかと言うと、『服』のリソースをゴッドハンドに割けるというだけなのだが……とにかく、こと近距離戦闘においては『服』状態よりも『魔力の手ゴッドハンド』の状態の方が遥かに強い。


 ある意味『服』のなり損ないだったゴッドハンドにも役割ができたのである。


 俺は魔族に対する怒りを抱きながらゴッドハンドを露わにする。そのまま勢いに乗って山の斜面を滑り降りて、モンスターの群れに突っ込んだ。


「ええ!? ちょっ、さっきまでの慎重さはどこに行ったんですか!?」


「そんなもん捨てたよ!」


 ゴブリン、オーク、ガーゴイル、巨大蜘蛛、双頭の蛇、その他諸々のモンスターが集まった多種多様なスタンピード。敵が気付く前に、先んじて氷の魔法を解き放つ。


 俺達の接近を察知したモンスターの群れだったが、地面が氷結して身動きが取れなくなった。

 降雨によって滑りやすくなった地面の状態が更に悪化し、次々に二足歩行モンスターが転倒していく。


 人型モンスターに対して効果は抜群だ。

 まず足止めを食らったモンスターを焼き飛ばす。ファイヤーボールを射出すると、熱波の影響が及ぶ範囲の敵が焼失した。


 しかし、空を飛ぶガーゴイルなどのモンスターは俺の魔法攻撃を回避してくる。また、人型でないモンスターなども転倒せずに俺へと向かっている。


 そいつらは魔法の拳ゴッドハンドで黙らせれば良い。ハエを叩き落とすように、無造作に薙ぎ払う。もしくは握り潰す。

 超硬質の魔力で殴られたモンスターは地面をのたうち回り、火の魔法で焼かれて大人しくなっていった。


「これで一先ず終わりか……」


 第一波は予定通り殲滅した。


 ただ、ボーッとしていたら敵は際限なく湧いてくるだろう。洞窟の中に入ってスタンピード出現の原因を確かめる必要がある。


 ナシュアが松明代わりに魔法で炎を灯してくれたので、彼女の光を頼りにしながら洞窟の中に突入した。


 通路を抜けていくと、微妙な場所でモンスターの大群の第二波が押し寄せてくる。


 洞窟内なら火の魔法を打ち放題だが、火力を控えめにしなければ天井崩落の恐れがある。火球を打ち出すよりも火炎放射器のようにして焼き払う方が簡単だと気付いたので、魔法の形を変えて敵を薙ぎ払った。


 ……のだが、火力が高すぎて結局洞窟内部がドロドロに溶けてしまった。眼下の暗闇に溢れ返っていたモンスター共は影も形もない。


 これで第二波は全滅だが、なまじウィンターの身体に憑依しているせいで、火力の調整を怠るととんでもない被害が出てしまう。


 多分、俺がキレてるのも火力増大に追い風なんだろう。怒りと炎のイメージが結び付いて、火の威力を抑えられる気がしない。


 更に歩いていくと、地面の質が変わった。足元を照らしてもらうと、一部だけが石畳となっていて。ダンジョンの構造が剥き出しになっているではないか。


「トウキ様、あそこに縦穴があります!」


「ウィンターの手記が正しいならもう少しで魔族と対面できるはずだが……」


「スタンピードが自然発生だと良いですね。私、あの時みたいな戦いは二度とごめんですから」


 あの時、と言うのはグルゲスト戦の時を言っているんだろう。確かにアレは最悪だった。


 スタンピード発生の原因を求めて、ダンジョンへと続く縦穴に落ちる。ゴッドハンドを使って安全に着地すると、内部は見慣れたダンジョンであった。崩れた瓦礫が階段のようになって洞窟へと続いているようだ。


 通路を一望すると、一方通行の道の先に扉があった。


 ゴッドハンドで扉を破壊すると、奥の暗闇からスタンピード第三波が押し寄せてくるタイミングと重なった。


 もはや何の感動もなく炎で敵を燃尽する。


「敵も学ばないな」


 目的もなく焼かれて死ぬだけなんて俺は嫌だね。


 右手から噴射する炎を弱めると、視界の端に人型のモンスターがいた。


「ぐうぅ……どうしてこんなことに……!」


 全身を焼かれて大怪我しているその亜人は、俺達に剣を向けながら後ずさっていく。


 あいつ、もしかして魔族か?


 悪魔デーモンのように仰々しくはない。下級悪魔って感じの弱々しい容姿だ。


「おい、待てよ。お前が敵の大将か?」


 逃げた先に回り込みながら、威嚇の意味を込めてファイヤーボールを生成する。

 こいつは瀕死っぽく振舞っているが、魔族を目の前にした時には油断大敵。グルゲストみたくアホみたいな生命力を持っていると思って対面した方が良い。


「……自分は大将ではない。偉大なる『八賢神はちけんじん』の一峰、マッカォ様の忠実なるしもべ……」


 八賢神。また新しいキーワードが出てきたな。


「そうか。ってことは、マッカォって奴がスタンピードを仕掛けてきたわけだ」


 原因が明らかになったな。やはり地震やスタンピードの原因は魔族だった、と。


「ふ、ふふ……」


「何がおかしい?」


「この私が死のうと、マッカォ様がいる限り!! 『八賢神』のマッカォ様に敗北の二文字は無ぁい!!」


「あっそ」


 情報を貰った上、気持ち良いくらいの捨て台詞を吐いてもらったので、俺は魔族に向けて紫炎を放射した。


「がああぁぁあああ!! 我が魂は、マッカォ様と共にありぃぃい!!」


 そんなに叫ばなくていいじゃん。

 まるで俺が悪役みたいだ。


 というか、魔族なら回復能力があるでしょ。どうせ復活するんだからそんな気合い入れなくても。


「もう一回起き上がってみろ。ファイヤーボールで燃やし尽くしてやる」


 魔族は絶対に許さない。恨みを胸に、火炎放射から火球ファイヤーボールに切り替えてを開始する。


 しかし、いつまで経っても炭化した魔族が復活することはなかった。


 あれ? もしかしてこの魔族、回復能力がない?


 ……ひょっとしたら、グルゲストって本当に強かったのでは?


「こいつ死んだぞ」


「で、ですね……」


 砂の城の如く崩れ去った魔族を見届けた後、俺達はマッカォ様とやらを倒すべくダンジョン探索を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大賢者エルフは引きこもりたい へぶん99🐌 @chopman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ