第111話 ノスフェラトゥ


「ッ! 全員戦闘準備!!」


 裕也さんが言うが早いか、暗闇から三つの影が飛び出した。

 超速の攻撃が向けられるは有紗さん、誠一さん、そして美穂だ。


「!!」「なっ……」「ッ!」


 先ほど美穂の眼下にも現れた小型ゴーレムだ。

 パーティで言うところの斥候、索敵役のそれは、音速をはるかに超える動きで三人に強襲する。


 そして──


「っ!! 有紗!!」


「……チッ! オオカミ女!」


「ぐぇ──?」


 この場で対応できるは、ただ二人。

 “極級探索者”天星裕也と、悪鬼だけだった。


 二人がそれぞれ有紗さんと美穂を庇い、なんとか攻撃を阻止する。

 しかし、残った誠一さんは……


「っ濱田さん!!」


「な、ぜ──」


「きゃ、きゃあああああ!!」


 鋭い凶爪に眼孔を貫かれ……そのまま脳へ到達し、頭部を爆散させた。

 その惨状と、仮にも熟練した超級探索者が手も足も出ずに殺されたことに、その場の全員が戦慄する。


「ハハハハ! どうした悪鬼!? どうやら本体じゃぁないようだなァ!?」


「ハッ……だからどうした」


 あからさまに狙われた後衛組。

 それもおそらく、戦闘能力の低そうな三人を狙った……様に見えた。


 蓮を狙わないのは、単に鬼道丸が憑依している状態だからだろう。

 しかし、それも今本体ではないとバレた。


「オイ、オオカミ女、鬼道丸。テメェらじゃあいつは無理だ」


「ぁ……う……」


「はぁ!? 俺様に引っ込んでろってか!? 冗談言うんじゃ──」


「“判官”相手にできんのか?」


「っ……」


 悪鬼の言葉に、鬼道丸は息を詰まらせる。

 実際、鬼道丸は地獄で二番目に強い鬼として知られている。


 だが、それはの話だ。

 

 悪鬼がそのランキングに含まれていないように、は存在する。

 それが“判官”だ。


 地獄に存在する岩晶洞のような区域を管理する、地の主。

 その一人が『ノスフェラトゥ』である。


「いけ! かの雪辱を晴らすのだ!!」


「くっ……!? 【氷嵐】!!」


「【土砲】!!」


 ノスフェラトゥの号令で、巨大ゴーレムたちが一斉に動き出す。

 どうやら素早い斥候ゴーレムは三体のみだったらしく、ようやく感覚を取り戻した勝瑞さんたちは魔法攻撃を開始する……が。


「「ギュオオオオオ!!」」


「なっ……」


 ゴーレムはそれをものともせずに腕を振り回す。

 魔法が直撃するも、どうやら効いた様子はない。


「ぐっ!?」


「あ、ああ! 【癒合の光】!!」


 弾き飛ばされる裕也さんたち。

 それを見て有紗さんはハッと気を取り戻し、回復魔法を使用した。


 瞬く間に癒される傷跡。


「有紗ちゃんありがとう!」


「ありがとうございます……!」


 裕也さんと勝瑞さんの二人が再度攻撃を仕掛ける中、美穂と蓮は固唾かたずをのんで見守っていた。


 戦いを。


「【鏖殺】!」


「「「ゴオオオオオオ!」」」


 巨体に似合わぬ速さで迫るゴーレムたちを、悪鬼がその手の三叉槍で打ち払う。

 そのうち、悪鬼の背後で冷静に周りを見渡せるからこそ、美穂は戦場の全貌が見えてくる。


(……明らかに悪鬼を警戒してる?)


 先ほどの会話から察するに、多分契約する前の悪鬼が岩晶洞ここを襲撃して壊滅させたことがあるのだろう。

 あまりにもすぎるのだ。


 よく見れば、裕也さんたちには足止め程度の数しかゴーレムを送っていないのに対して、悪鬼一人には十体ほどのゴーレムを差し向けている。


 どういうわけかノスフェラトゥはまだ動かないが、かといって隙があるわけではない。

 常に十数体のゴーレムが囲むようにして護衛しているからだ。


 それに、どう見てもノスフェラトゥ自体、戦闘能力に特化していることは言うまでもない。


「「「ゴオオオ!! ゴゴゴゴ!!」」」


「ガチャガチャうっせえんだよ! 【悪逆阿修羅】!」


「ハハ、どうした! まさかその程度の力しか出せないのか、悪鬼!?」


「チッ……黙って見てろ!」


 悪鬼が三叉槍を振るうたび、巨大ゴーレム達の進撃は止まるものの、対したダメージが与えられていない。


 先ほど力をためる必要のある【悪逆阿修羅】で数秒溜めて、やっと一体をぶったぎったのだから、コンマ一秒でも命とりなこの戦場にて、その数を減らすことはできなかった。


「いくらこれでも溜めなきゃ無理かァ……?」


「我らに物理攻撃で挑もうなぞ、相変わらず貴様らの考えることはバカばかりだな!」


 悪鬼は舌打ちすると、武器を変えて振り回す。


「【破砕旋風】!!」


「総員退避!」


「グゴゴッ!!」


 蛇腹剣が竜巻の如く振り回された。が。

 ノスフェラトゥの指示と、ゴーレム達の見た目に反する機敏さによって、その全てが回避される。


「チッ……!」


「どうした! その程度か!? 弱くなったなぁ、悪鬼!!」


「アァ!?」


 【破砕旋風】は、命中した敵の“防御力”自体を破壊する……言わば防御力デバフ100%を付加できるスキルだ。

 しかし、範囲は広いものの、発生や動作が大きく、素早い的に命中しないという欠点をかかえている。


 まさに、今この状況がそうだ。


「いけ! 我らは強くなったんだ!! もはや悪鬼など、恐るるに足りん!! ハーハッハッハ!」


「「「グゥオォ!!」」」


「テメェ……!」


 未だに情報が整理しきれないが、青筋を浮かべる悪鬼の方はともかくして、美穂は裕也さん達の方を見る。


「──ぐっ!! 【土石流】!」


「【氷舞】!」


「回復します! 【譲渡】!」


 現在、戦えているのは悪鬼の他に彼らだけだ。

 とはいえ、悪鬼と違って、彼らの元にはゴーレムは4体しかいない。


 更に、有紗さんが魔力を回復しているため、魔法も魔力を気にせず連打できている。


 しかし、一体も倒せていない。


 倒せそうになっても、そのゴーレムが下がって他のゴーレムに交代してしまうからだ。


 まぁ、魔法の方が物理より効きやすいはずなのに、致命的な損傷を未だ負わせれていないが。


「クソッ……このままじゃだめだ……!」


 拮抗してるようなこの状況にも、終わりは来る。

 有紗さんの魔力は無限ではないからだ。


 勝瑞さんの言葉に、裕也さんは歯噛みして……決意した。


「千縁君!! 勝瑞君! 時間を稼いでくれ!!」


 そう言うと、裕也さんがブツブツと高速で呟き出す。


 魔法の威力を極限まで発揮するための“詠唱”だ。


「……!? 分かったっ……!! 千縁くん! 協力してくれ! こっちは一人じゃ無理だ!」


「ああ!? こっちも忙しいんだよ! テメェらのことはテメェらでなんとか──あ!?」


 勝瑞さんの言葉に、悪鬼がまた吐き捨てようとして────不意に、かぶりを振る。


「……千縁?」


 その言葉に、美穂はハッと、目を見開いた。

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千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜 星影 迅 @Lvee

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