漠然とした恐怖を感じられる作品でした。
ネタバレになるので細かなギミックは明かせませんが、「すべてを知ったうえで、もう一度読みたい」と思わされます。さして珍しい手法ではありませんが、当然のように再読を促せるのは作者様の洗練された筆致の為せる技といったところでしょうか。無駄がなく、それでいて乾き過ぎていない文体は、書き手としても参考にしたくなるほどに秀逸でした。
そして、本作の醍醐味である恐怖。サイコホラーとでも表現しましょうか。もちろん、その他の要素を主体に物語を考察することも可能ですが、個人的にはこの恐怖演出が刺さりました。誰に、なにに恐怖するのか。それは是非とも読者の皆様の目で確認していただければと思います。短編でありながら、そのボリュームと余韻は長編にも引けを取らないこと間違いなし。不思議な純文学の世界に飛び込みたい人にオススメしたい一作です。