第21話 惑星自分時間

 時間が足りない。

 ゲームや長いシリーズ物の娯楽小説を読むのが趣味の彼は、ついつい続きが気になって徹夜をする生活を繰り返していた。

 一日が24時間では足りない。

「そうだ! 一日が24時間以上ある惑星に移住しよう」

 そう考えていろいろ調べてみた結果、【惑星自分時間】という特殊な人工惑星の存在に辿り着いた。


 その人工惑星はいつも昼間で、気温も過ごしやすい一定温度で、住民はそれぞれ一日の時間を何時間にするか決めることが出来た。

 さっそく彼は移住資格の健康診断の結果を持って【惑星自分時間】へ行き、移住カウンセラーを相手に移住手続きを始める。


「この惑星では、一日を何時間と定義するかは個人の自由です。ただし、届け出が必要です。あと税金は労働時間と反比例して高くなります。つまり働けば働くほど税金が安くなる制度ですのでご注意ください」

「みなさんはどうされていますか?」

「人それぞれ自由というのがこの惑星の良いところですね。ですが初心者の方には一日32時間をお勧めしておりますね」

「一日が24時間では足りないと思っていたのでそれはいいですね!」

「ええ、8時間働いて8時間睡眠、残り16時間が自由時間という感じですね」

「出来れば働かないでずっと趣味の時間にしたいですが、お金もないので初めはそんな感じで登録します」

「ご無理なさるとドクターストップが、かかり、自分時間の見直しや最悪、移住資格を失うのでお気をつけてください」

「ありがとうございます」


 そんな感じでの移住だった。この惑星は成人しかいない。結婚する人もいてプロポーズの言葉が「同じ時間を過ごさないか?」だったりするが、パートナーで違う自分時間を過ごすケースのほうが多く、どちらかが寝ている時どちらかが起きているというような補完関係であることもある。それぞれの人が自分中心に時間を決めていた。


 彼は最初は「これなら徹夜しないで却って健康的じゃないか」と思っていたが、ゲームや小説の続きが気になるのは一日32時間になっても変わらず、結局睡眠時間を削ることになり、体調を崩してドクターストップがかかり、移住カウンセラーのカウンセリングに呼ばれることになった。


「睡眠時間を削ってしまうということですが、改善策はありますか?」

「働かないで全ての時間を趣味に使って、眠りたいときに眠りたいです。だから、今後しばらくはお金を貯めるために趣味は封印して働くことに集中したいです」

「それでは一日32時間で8時間睡眠で24時間働くことをお勧めします。実はこのプランはこの惑星で二番目に人気のプランなんですよ。実は私もそうで、休憩時間も多く仮眠も取れるし、税金も安いのです」


 こうして彼は24時間働くことになった。


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小さな果実たち(掌編集) 火浦マリ @marihiura100

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