第7話 夕食の場《ノアside》
セレトキア公爵家では、極力夕食は家族揃って食べるようにしている。
というのも、マナーがなっていない者や社交術が身に付いていない者に注意を促すためだ。
数代前に、家族に無関心な父親が唯一人の子供を放置したところ、母親やメイドが不憫に思って甘やかしに甘やかしたことがあった。
結果、その子供が公爵家の当主としてふさわしい者に成長しなかったため、分家から次期当主を選ばねばならなくなったそうだ。
それ以来、再びそんなことを起こさないために、セレトキア公爵家では子供の教養を夕食の場で確かめられるようになった。
∗∗∗∗∗
と、いうことで、家族が揃った夕食の場。
──めっちゃ、殺伐としています。
なぜかって? 兄三人が足の引っ張り合いをしているからだ。
ここでもまた、数代前の事件が絡んでくる。
それまでは当主の継承する者は長男と決まっていたが、長男が死亡したという訳でもないのに当主になれなかったので……それ以降、この決まりが変わった。
後継者は、男女や生まれた順番などで決めず、一番優秀な者が選ばれるようになったのだ。しかも、一度選ばれても爵位を継ぐ前だと変更されることもある。
そんな訳で、兄三人は次期当主を狙って、食事の場で当主である父にアピールしたり、貶し合ったりしている。
幸い、俺は次期当主になりたいとの意思表示もせず、目立った功績も上げていないので、敵認定されていない。
だから兄達の争いを横目に見ながらではあるものの、いたって平和に食事の時間を終えられる。
ここで家族について紹介したいと思う。
まず、父でありセレトキア公爵家の当主であるケルヴァン・ネイチェル・セレトキア。
俺の実母である前妻とは八年前に死別しており、今は元伯爵夫人を娶っている。
と言っても、義母とは契約結婚──夫婦の営みは行わない、いわば形だけの夫婦だ。家同士の結びつきを強める、政略結婚の一種である。
貴族だと初婚ではあまり行われないが、再婚となると珍しいことではない。
この契約結婚は隠していることではなく、親族には説明されている。また、公表されてこそいないが、社交界では『暗黙の了解』として察されている。
義理の母との再婚について来たのが、義妹のメリナだ。
メリナは五歳で、俺とは五つ離れている。
ちなみにメリナは公爵家の令嬢ではあるが、公爵家の血は一滴も流れていないので、次期当主の資格はない。
血は繋がっていないが、兄弟の中で唯一メリナに構っていた俺が『兄』として認識されている。
そして、後継者争いを繰り広げているのが、長兄のアイザック、次兄のエドワード、三兄のウィリアムの三人だ。
それぞれ、十六歳、十五歳、十三歳で、俺の実兄だ。
この三人は、『次期当主』に関わりのない者は、良くも悪くも無関心なので、後継者争いに参加していない俺や、資格のないメリナは認識されているかも怪しい。
そんな俺が口を開くのはめったにない。
家族が食事の場に集まるのは、次期当主を見定めるためであって、当主になる気のない者と話すためではないからだ。
しかし、今日は兄達の争いが一段落ついたところで、重い口を開く。
この家族全員が集まる食事時間で、唯一父親と会える──つまりは、父親と話したかったら、今話すしかないということだ。
「父上、話したいことがあります。後で時間を取ってくれないでしょうか」
「……分かった。食事が終わると執務室に来い」
めったに口を開かない俺が喋ったことに、父親も一瞬物珍しげな表情をしたものの、すぐにいつもの無表情に戻ると、食事を再開する。
魔王と聖女の約束は来世で 水蓮 @lotus_62
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