第6話 調査《ノアside》

 公爵家に生まれた俺は、幼い頃から勉学や剣、マナーを習い始めねばならなかった。

 まずは、その時に雇われる家庭教師のおじいさんに、歴史を教えてもらう途中にさりげなく聞いてみた。

 歴史は習っているのだが、知名度という観点で授業は進まないから、有名人の共通点どころか誰が有名なのかさえ知らない状態なのだ。


「知名度の高い歴史人物はどんな人がいるんですか?」

「我がフラトル王国だと、賢王と名高いフェリクス王が圧倒的人気を誇っています。

世界規模でいうと……、死してなお世界を混乱に導いた狂乱王のマッケンジー・トリトア。腐っていた宮廷を改革した政治家のヴェロティア。彼の指揮する戦場で負けることはないとまで言われた天才軍師のカレッタ。後は……、当時の魔術界の常識を覆したと言われる魔術学者であるローラン・フォンなど……」


 先生は、いきなり「有名な歴史人物」など訊かれて驚いただろうが、五人程答えてくれた。


「……それにしても、どうしてそんなことを?」


 その問いに、俺はあらかじめ訊かれると思って用意した答えを返す。


「今、社交の勉強もしているのですが、相手が緊張していたら、誰もが知っている話で緊張が抜けてから違う話題に移れ、と言われまして。

その『誰もが知っている話題』は歴史だとどういうものがあるのかと思い、訊ねました。今まで勉強してきましたが、『知名度』という観点ではしたことがないでしょう?」


「確かにそういう話はしたことがありませんでしたね。……そうですねぇ、歴史の話はあまり社交に向かないのではないでしょうかね。どうしても批評になってしまいますから」

「なるほど」

「しかし、学んだことを別のことに生かすのは凄く良いことですよ。それに、知名度ではなく、その土地に関わり深い歴史人物ならば、かなり効果的なのではないですかねぇ。

……社交に使わないなら要らない情報かも知れませんが、図書館にある子供向けの偉人のコーナーに載っている人物はたいてい有名ですよ」


 気づかれないようにしていたつもりだが、家庭教師の先生は何か察したように、さらっとアドバイスをくれた。

 まったく、食えないじいさんだ。


 しかしなるほど、図書館か。

 公爵家の書斎はもう探したが、あれは読む人が限られているから本も偏っている。専門的な内容は書いてあるが、おそらく知名度は凄く低いだろう。

 しかし、読む人が不特定多数の図書館ならば俺の探している「世界的に有名な人物」について書かれたものもあるかもしれない。


◆◇◆◇◆◇


 早速、勉強が休みの日に図書館に寄った。

 図書館には先生の言っていた子供向けの偉人コーナーがあった。

 早速片っ端から読み進めていくと、名前と職業をメモしていく。


 そんな作業を進める内に、気が付けば閉館時間が近づいてきた。

 しかし、なんとなくではあるが、共通点が見えてきた。



 前提として、大きな功績を上げた人が載っている。

 そして、その功績とは主に三つに分けられる。

 一つ目、良くも悪くも世界に影響を与えた統治者。

 二つ目、戦争の立役者。

 三つ目、生活を便利にする道具や魔術を作った研究者。


 一つ目はまず王や領主になって領地を治めないといけないから無理だ。

 公爵家は、兄が三人もいるからその内の誰かが継ぐだろう。

 公爵位の他に父が持っている爵位を継ぐこともできるが……、どうせなら貴族として縛られずに生きたい。


 二つ目は、現在戦争のない平和な治世である以上ほぼ不可能だ。平和な時代にそんな才能があっても宝の持ち腐れ、又は要らぬ火種だ。

 何より、もし敵国にミケイラがいて、自分が殺してしまったら。直接的でも間接的でもきっと耐えられない。


 三つ目は比較的望みのある目標だ。それに研究者は自分の気質に合っているとも言える。

 通常、貴族は13歳から全員王立の学園に入学する。初めの3年は共通の普通科に入って、16歳から各専門コースに別れる。

 その時に魔道具科コースか魔術科コースを選べば専門的なことを学べる。後は結果次第だ。

 公爵家としても妥当なところだろう。

 前世では魔術の研究が楽しくて仕方がなかったから、研究できるのなら、魔術を再び研究したい。

 


 ──ノア・オブジーク・セレトキア。十歳で、魔術の研究者になることを決意。

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